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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-5



三日後。
瑞稀の姿は音楽ホールにあった。瑞稀だけじゃなく、優羽や香菜といった鼓笛隊のメンバーも。
皆、大型の控え室に昨日から泊まり込んでいる合宿荷物や楽譜が入った移動用のバッグを置いている。
バトンチームの子達は衣装に着替え、パーカーを着てメイクをしている真っ最中。その子達の隣で楽譜のリズムを合わせるトランペット・ドラムチーム。衣装に着替え、楽器を鳴らせずとも少しでも良い演奏をしようと努力している。
その中心人物。
それは、今回トランペットのソロを担当する瑞稀だった。

「あーっ、緊張してきたぁ・・」
「今更かよ。瑞稀。」
「しょうがないじゃん。さっき配られてるお茶飲みに行った時にホール見たし」
「あーあ。自爆しちゃって。大丈夫ー?」
「あのホールを見たって結構大胆なことしたな」
「って言っても、外のモニターで見ただけだよ。」

ドラムの子や優羽たちと笑ってはいるものの、初めてのソロに緊張しない訳がない。
さらに、今回は観に来ているオーケストラ楽団の数が多いことも理由。前と違い、学校代表というモノを採用しなくなった分の時間をプロが演奏する時間になったことから始まったのだ。
プロの演奏というものが初めてな瑞稀は最初こそ興奮していたが、いざ自分たちがその人たちの目の前で演奏すると考えると緊張しないはずがなかった。
タイミング良く、自分のソロと被ってしまったと今にも泣き出したいくらいだ。
そんな時、バッグに入れたままのケータイが着メロを流した。それにも、瑞稀は身体をびくつかせた。

「アハハ、そこまで驚かなくても!」
「敏感すぎ!ほら、早く出てあげなよ」
「うぅ・・・。・・もしもし・・」

瑞稀の反応に大笑いした仲間たちを一瞥したあと、瑞稀は電話に出た。
相手は、言わずもがな、拓斗。
今日がフェスティバルだと知った彼は、応援に行くという約束をまだ覚えていた。
だから応援に行くから場所を教えて欲しいと昨日メールで言ってきた。どうせなら、演奏する前に会いたいと思った瑞稀は、ヒカリに許可を取ってリハーサルを始める前の時間を貰って拓斗に会うことにした。そのために、ホールに着いたら電話をして欲しいと頼んでいたのだ。

電話の内容は、やはりホールに着いて受付を終わらせたとのモノ。
まだホールに入る前のロビーではケータイが使える。ホールに入るにはケータイそのものの電源を切らなければならない。コンサートのマナーだ。
すぐ行くと伝えて電話を切って、冷やかしを受けて見送られてロビーへと急いだ。
拓斗の姿はすぐに見つけることが出来た。何故なら、今はホールの中でコンサート中。瑞稀たちは午後の部一番だから昼休憩のあとで入れば問題無いが、どうせなら全部観たいという観客が多い。ましてや、音楽コンサートは遅刻厳禁。上演が始まってしまうと休憩があるまで中に入ることは許されない。さすがに、観客としては避けたい事態。
本来なら、ここまで厳しくはないのだが今回はプロが参加する。それにはそれ相応の対処をしなければならない。

受付のスタッフ以外、誰も居ない空間に一人だけいるのだから見つけられない訳がない。
拓斗の方も、すぐに瑞稀に気付いたようでこちらに歩いてくる。
さすがにジーパンはマズイと思ったのか、制服のブレザー姿だった。

「ゴメンね。わざわざ・・」
「いや、全然。観に来たかったし、緊張してると思ってさ」
「あ、あはは・・ありがと」

自分の今の心境が全て見透かされていることに、瑞稀は苦笑いするしかなかった。
拓斗は顔が強ばっている瑞稀の頭を撫でた。
一瞬だけ驚くが、すぐに身体を委ねてその温もりを目を閉じて感じる。
暖かくて、優しい。そんな太陽のような温もり。

「・・やっぱり、魔法」
「・・・え?」
「拓斗の手は、魔法の手だよ。凄く安心するから・・」

そう小さく呟いた瑞稀はギュッと拓斗に抱きついた。温もりを身体全部に渡るように。
いつもならしない積極さに拓斗は驚いたが嬉しさが心の中を巡り、瑞稀の身体を抱き締めた。


どれくらい、時間が経っただろう。
抱きしめ合ったまま、どちらからともなく、キスを交わした。
唇が離れると同時に瑞稀は少し身体を離した。これ以上はさすがに恥ずかしかったのだ。
真っ赤な顔を、腕で庇いながら拓斗の手を掴もうとした時。

「・・瑞稀ー・・イチャついてんのは分かるけどそろそろリハ行くよー・・」

小さな声で、呼ばれたのに気づいた。
瑞稀が後ろを向くと、自分の楽器まで持っていてくれている香菜と口に手を当てて今だに名前を読んでいる優羽の姿があった。それに、拓斗も気がついたようで。

「瑞稀、出番だな。」
「まだだよ。午後の部一番!これからリハ」
「そっか。どっちにしても、次会えるのは演奏終わってからだろ」
「・・あれ、拓斗。私たちのあと見ないの?」

拓斗の言葉に、瑞稀は疑問が沸いた。そのまま本人に聞く。

「あぁ。あんまり興味ない。瑞稀が演奏してるのだけ見られれば良いし」
「・・・っ!そ、そっか・・!」
「だから、またここで待ってるよ」
「うん!ありがと!!・・じゃ、行ってきます!」

拓斗のおかげで、緊張が解けた瑞稀は笑顔を見せた。ここで、待っていてくれると言ってくれた人に手を振った。





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