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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-4



― 「音楽とか良く分かんないけど、俺はお前のトランペットの音、好きだな」

― 「大丈夫だって。自信持てよ」

― 「たまたま賞取れなかっただけだろ?来年リベンジすればいい」

― 「お前なら出来るよ。また・・俺も、応援来るから・・」



「(・・来るって、言ったのに。もう2年目だよ馬鹿!)」
「・・瑞稀」

エレベーターホール脇にある休憩場所に自動販売機で買った缶ジュースを手にして佇んでいた瑞稀は、拓斗の言葉を思い出していたが恵梨の声が聞こえ振り返った。
視界に映るのは申し訳なさそうにしている親友の姿。
それを一旦視界から外して壁に背中をつけて炭酸の缶ジュースに視線を落とす。

「・・忘れられないんだ、どうしても。だからこれ買っちゃった」
「・・・それ、サイダー?」
「そう。あまり飲まないけどね」

謝るタイミングを逃した恵梨は、瑞稀の言葉に乗っかった。
瑞稀は、恵梨が何を言いに来たのか分かっていた。が、今はそれを聞いていられなかった。ただ、今思い出した想い出を、気持ちを恵梨に伝えたかった。

「6年の鼓笛フェス。仲直りしたから拓斗が応援に来てくれたんだ。だからかは分からないけど凄く上手く吹けた。これは賞取れる!って思った。でも、取れなかった。」
「・・・」
「丁度、そのフェスで鼓笛隊を卒業する人も居て・・どうしても団体賞は欲しかった。でも、取れなくて。」
「・・でも、それは、瑞稀だけのせいじゃないんじゃ・・」
「分かってる。でも、一度期待した分ショックが大きかった。だから・・このホール外の公園で泣いてたんだ」

そう、言葉を区切った瑞稀は恵梨に視線を移してそのときの出来事を語った。



*****


「・・・・っ・・・」

《ピトッ》

「・・!?」


ベンチに座り込み泣いていた時、急にうなじへ当たった冷たさに瑞稀は泣いてることも構わず、顔を上げた。
そこに立っていたのは、サイダーを持った拓斗だった。
拓斗は何も言わずに隣に座ると、瑞稀へサイダーを差し出した。サイダーを渡される意図がよく分からなかったがとりあえず受け取った。
自分の手からサイダーが消えたのを確認した拓斗は自分の分用に買ったサイダーを開けて飲み始めた。
どうしていいか分からずにいると、拓斗から飲めよと声が掛かる。
頬に流れる涙をTシャツの袖で拭うと缶のタブを開けて一口だけ喉に通す。
その冷たさが、熱くなるまま涙を流していた心を冷やしてくれた。
少しずつ飲んでいると、缶を持っていない左手が動いたのに気づいた。何だろうと思っていると、その手が瑞稀の頭にポンと乗せられた。その小さな重みに、少し顔を俯かせた。

「・・お疲れさん。頑張ったな」
「・・・!」

拭って落ち着いた筈の涙が再び流れそうになり、慌てて袖で拭う。
それでも、拓斗の手は瑞稀の頭を優しく撫でる。その優しさと温もりに涙が止まらなくなる。次第に、嗚咽が大きくなっていく。瑞稀は体制を崩して、頭を撫でることで開いた拓斗の左半身のスペースに身体を預けた。
一瞬だけ驚いたが、泣いている理由に気づいている拓斗は持っていたサイダーを置いて右手で瑞稀の背中を優しく叩いた。小さい子を、あやすかのように。

「・・、・・私が・・、もっと音出せてれば、もっと迫力あれば・・、」
「・・そうか?今の音でも充分良いと思うけど」
「だって!・・賞、取れなかっ・・」
「お前だけのせいじゃないだろ?」
「・・そ、う・・だけど・・」
「音楽とか良く分かんないけど、俺はお前のトランペットの音、好きだな」
「・・う、そ・・だって・・・」
「大丈夫だって。自信持てよ」
「・・・う・・、でも、賞・・」
「たまたま賞取れなかっただけだろ?来年またリベンジすればいい」
「・・、来年・・。・・また今日みたいに吹けるかな・・」
「お前なら出来るよ。また・・俺も、応援来るから・・」
「・・うんっ・・!」


*****

「・・・でも、卒業式のことがあって・・連絡取ってないから応援、来ないんだ」
「・・・」
「薄情だよなぁ・・。励ましといて、来ないって。」
「・・瑞稀。その人に会いたい?」

自嘲気味に呟いた言葉に隠した本心を見事に当てた恵梨を憎らしく睨んだがすぐに視線を外すと悲しげな表情を見せた。サイダーを手で転しながら。

「・・・会いたい、のかもね。ううん、拓斗に、会いたい。」
「瑞稀・・」
「会いたいんだよ・・。」

サイダーを強く握り締めた瑞稀の背中を恵梨は優しく撫でる。少しでも、悲しい気持ちが無くなるように。瑞稀は、恵梨の優しさを感じて今まで話さなかった事を謝った。
気にしなくていいと言ってから、無神経だったゴメンと恵梨に謝られ、瑞稀は首を振った。
丁度その瞬間、23時となり合宿所内の電気が全て消えた。
急に真っ暗になった空間に驚いたが、トイレ等はまだ電気が付いているので、その光を頼りに部屋に戻ろうと恵梨から声をかけられて暗闇に慣れていない瑞稀も頷いた。
恵梨の手をギュッと握り、部屋までの道を歩いていると以前も同じようなことがあったとデジャヴに襲われた。
記憶を辿っていくと、そんなに遠くない懐かしい拓斗との記憶が思い出された。




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