投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 92 THANK YOU!! 94 THANK YOU!!の最後へ

THANK YOU!!-8



「にしても・・八神さんって凄いねー」
「・・・何が?」

瑞稀は、恵梨と共にすっかり暗くなった道を自転車を押しながら歩いていた。
今は、部活が終わった6時半。総下校の時間でもある。
二人は吹奏楽部に行き、無事に入部することができた。
やはり、瑞稀の思っていた通り部員が少なく、各パートの人手不足が見受けられた。
ましてや、恵梨が志望しているサックスなんて先輩が誰も居ない為に、恵梨一人となってしまい、謝罪されたが先輩たちとしてはサックスパートが復活したと喜んでいた。
瑞稀の志望したトランペットは3人居たが、どれも2nd以下のパートを担当している先輩たちで、必然的に瑞稀は1stとなってしまった。
勿論、このことにも先輩たちから喜ばれたが鼓笛隊であまり1stを受け持ったことのない瑞稀にとっては、持ってきた楽譜の曲を吹くのにも結構なプレッシャーだった。
なんとか今日の部活が終わると、恵梨から、

「一緒に帰らない?」

と誘いを受け、瑞稀はそれに乗った。昇降口を出て、門とは少し離れた場所にある自転車置き場から愛用しているサイクリング用の自転車を転がし、先に門で待っていてもらった恵梨と合流して、駅までの道を一緒にしていた。
そんな時に、恵梨から言われた言葉が冒頭の言葉。

「トランペットだよ。先輩たちも言ってたじゃん」
「あ・・うん。なんか、褒められたね」

照れくさそうにしている瑞稀は、部活最初の出来事を思い出した。
行った最初に、いきなりトランペットを吹くように言われ、渋々ながらも適当に選んだ曲を吹いた。その曲が終わった瞬間、瑞稀は喝采をもらってしまった。
訳が分からない瑞稀に、先輩から自分のトランペットが素晴らしい事を説明された。
良く、解らなかったが。

「まったく分かんなかったんだけど・・」
「そう?ウチには分かったよ。凄いって」
「どこが?才能ないし、初めて長いワケじゃないし・・」

今まで、鼓笛隊で1stを受け持たなかった瑞稀には、戸惑いしか無かった。
チラッと横目で、トランペットケースを見つめる。
そんな瑞稀に、恵梨は一瞬だけ面食らったような顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

「鼓笛隊に入ってるんでしょ?もしかしたら、それであんな音になれたんじゃない?」
「あんな音?」
「そ。何者にも囚われない、自由な音。」

笑顔で言われた言葉に、瑞稀は顔が一気に赤くなった。
初めてこんなことを言われたからだった。恵梨は更に続けた。

「それにね、凄く楽しそうに吹いてるなってのも伝わったから。本当にトランペット好きなんだなって。」
「・・うん。それしか無いし。」
「いいじゃん。それが伝わるような音が出るって、ある意味才能だと思うよ?」
「・・・ありがとう、紫波さん」

続けられた言葉にますます顔を赤くした瑞稀は、なんとかお礼だけ言った。
すると、何故か恵梨は不服そうな顔をした。

「・・・・なに?」
「いや、その“紫波さん”って嫌だなーと思って」
「・・いや、紫波さんも私のこと“八神さん”って呼んでるし・・」

恵梨の顔から、自分がまずいことでも言ったのかとビクついたが、すぐに聞こえてきたセリフに、瑞稀は呆れながら言葉を返す。
お互い不満顔を見合わせると、プッと小さく吹き出して大笑いした。

「じゃあ、瑞稀ちゃん・・で良い?」
「うん。じゃあ、私は恵梨ちゃん・・か」
「オッケー、改めて、宜しく」
「うん!」


THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 92 THANK YOU!! 94 THANK YOU!!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前