海水欲-9
それから4人で泳いだり、ボール遊びをしたり、お昼は海の家の焼きそばを食べたり……これぞ、海水浴と言われる事を全てやった。
何かをやる度に驚いたり質問してきたりする薫子は本当に可愛いらしくて、普通だったら面倒くさがる俺も薫子に対しては嫌がりもせずに丁寧に対応する。
「なんかお嬢様と執事って感じ」
かき氷を食べながら言った加藤の言葉は物凄く適切で、俺は思わず吹き出した。
「きたねぇな」
「わりっ」
吹き出した氷の粒を浴びた今村に簡単に謝り、タオルで拭く。
「だって、高野くんって薫子ちゃんには敬語はずさないじゃない?なんか素敵」
いやいや、そんな良いもんじゃないし、セックスの時は無茶苦茶命令口調だし。
「俺も敬語で話ましょうか?お嬢様」
「やだ」
ふざけた今村に加藤は即答して笑う。
いいね〜微笑ましいったらないよ。
「あ、ゴミ捨ててくるわ」
かき氷のカップやら他のゴミをまとめた俺は、その袋を持って立ち上がった。
「私も行こう」
薫子もパーカーを羽織って俺に続く。
俺は少し振り向いてチラッと今村と視線を交わした。
(ごゆっくり)
口をパクパクさせて伝えた内容は、今村にちゃんと通じたらしい。
奴は親指を立てて合図した後、手をヒラヒラ振った。
「楽しんでます?」
ゴミ箱まで歩きながら俺は薫子を見下ろす。
おおっ谷間が見えるよっ絶景、絶景。
「うむ。海の水が塩からいのには驚いたがな」
未知のものに対して匂いを嗅いで舐める癖のある薫子……海水に対してもそれをやらかしてしまい、激しく咳き込んだのだ。
「初めに言っておくべきでしたね。すみません」
「いや、何事も経験じゃ」
ゴミ箱にゴミを捨てた俺は、パンパンと払った手を薫子に差し出す。
「少し散歩しましょうか?」
「何故じゃ?」
首を傾げる薫子に、俺は顔を寄せて囁いた。
「邪魔しちゃ悪いでしょ?」
そう言ってさっきまで俺らが居た場所を指差すと、そこでは今村と加藤が濃厚なキスを交わしているところだった。