降臨-1
世の中には人間以外にも知的生物が居るって知ってるかい?
かく言う俺も人間外生物なんだ。
俺は猿が変化(へんげ)した妖怪……もう、300年は生きている。
人間が大好きで人間の世界に居るのが大好きで……今は16歳ぐらいの人間に化けて高校に通っている。
どうやって入学したかって?
妖怪には色々と技があるんだよ……催眠術とかなんとか色々な。
ちなみに、俺は中学校に潜りこんでこの高校にはちゃんと試験を受けて入った。
自分でもたいしたもんだと思っている。
まあ、300年も生きてりゃ色々と知識はつくものさ。
そんな話は置いといて……そろそろ昼飯時だ……俺の飯はまだかなあ。
「コラ、高野。勝手に鞄を開けるな」
べこっ
弁当の入ってる鞄に手を伸ばしていたら、鞄の持ち主にパックのジュースで叩かれた。
ちなみに高野は俺の人間バージョンの名前、高野 篤(タカノ アツシ)がフルネームだ。
「飯くれ〜腹減ったあ〜」
「だったら山に帰って木の実とか魚とか自分で採れ。この猿」
悶える俺に辛辣に言い放ったこの鞄の持ち主、今村 芳郎(イマムラ ヨシロウ)は霊感少年だ。
あれは3年前……中学校に潜り込んで素知らぬ顔をしていた時。
「おい。猿。尻尾が邪魔だ」
と、後ろの席から椅子の背もたれを蹴られた。
人間に化けている時は見えない様にしていたのに今村には見えたようだ。
どうやら、俺が尻尾をくにくに振るもんだから黒板が見えにくかったらしい。
こんなあっさり正体がバレたのは初めての事で、内心ビクビクしていたのだが今村は別に変わった様子もなく拍子抜けした。
後で聞いてみたら「他人に迷惑をかけないなら別にいんじゃね?」だそうだ。
いや……まあ、授業料誤魔化したりとか?給食費払ってなかったりとか?結構、迷惑かけてるんだけど……と話すと、そんなのは迷惑の内に入らないと一蹴された。
若い人間にしては面白い考え方をする今村が気に入って、それ以来ずっとつるんでる。
「つれない事言うなよお〜人間のご飯美味いんだもんよ〜特にお前の母ちゃんの弁当、最高♪」
何よりもこいつの母ちゃんの作るご飯の美味しい事と言ったら!弁当の為にくっついていると言っても過言ではない。
「……伝えておく」
今村は少し照れて鞄から弁当を取り出し、俺の頭に乗せた。
「?丸ごとくれるのか?」
いつもは今村が3分の1ぐらい食べた残りを俺が平らげている。
「ふふん。璃子が作ってくれたからな♪」
今村はそう言ってもう一つ弁当を出した。
璃子とはクラスメートの加藤 璃子(カトウ リコ)、今村の彼女だ。
最近、今村と付き合い始めたこの彼女にも霊感があるらしいのだが、そこまで強くないらしく俺の正体はバレてない。
そして、今村も例え相手が彼女であろうと俺の正体をバラす気はないようだ。
いやあ、男の友情……つうか、種族を超えた友情って良いもんだなあ。