藍雨(後編)-2
ぼくは、全裸のままベッドから起き上がると、ホテルの部屋の窓をあける…。
霞みに包まれた灰色の街並みの陰翳が、水に溶かしたようにぼんやりと浮かんでいた。窓辺に
佇むぼくの脳裏には、ただ雨の音だけが終わりのない音楽のように聞こえてくる。
目の前を燿華さんの姿がよぎっていく。もう十数年も前のことだというのに、不思議に感じる
ほど、彼女のことが胸にこみあげてくる。
冴えたぼくの瞼の奥は、眠っているようで眠ってはいない。鋭い彫刻刀でぽっくりとえぐられた
ようなぼくのペニスの中の空洞が、ぼく自身を憐れむように切なげに囀っている。
藍色の雨が窓際に降り込んでくる。ぼくの頬が、微かに雨に濡れる…。
首筋に垂れた雨が、細い筋を描きながら下半身を流れていくとき、まるで燿華さんの唇でペニス
を愛撫されたみたいに、ぼくのからだ全体が優しくやすらいでいくようだった。
からだの芯に、今もまだ燿華さんに受けた鞭の痛みが、ほんのりと心地よく残っているような気
がした。
最後に鞭を受けたとき、ぼくのからだが内側から圧迫され、搾り出されようとする精液がペニス
の中で飛沫をあげ、燿華さんへのほくの思いとともに優しく渦を巻いたことを憶えている。
ぼくに恋を与え、同時にぼくを突き放した燿華さんは、やっぱりぼくにとっては女王様…
そして、彼女は、これまでぼくが感じたことがないような薔薇色の恋空へとぼくを解き放って
くれた人なのだ…。
瞼の裏にあのころの情景が浮かんでくる…。
「…どうか、ぼくをあなたの思うままに犯してください…」
リノリウムの赤い床の上で四つん這いになったぼくは、鞭打ちの余韻にからだをくねらせながら、
床に顔を押しつけ、燿華さんの前にゆっくりとお尻だけを持ち上げる。
黒いペニスバンドを纏った燿華さんは、薄い笑みを浮かべながら床に膝をつき、ぼくの背後から
尻肌を黒いディルドの先端でゆっくり撫でまわす。ぼくのお尻の翳りの中で、尻芽がかすかに
息づき始めているのがわかる。その尻芽の襞の重なりが、すでに淫靡にひくひくと小刻みに震え
ている。
彼女はぼくの腰に手をあてると、両手でぼくのお尻を抱え込むようにして、少しずつ自分の腰を
押しつけていく。ぼくのお尻の割れ目をつつきながら、ディルドの先端が、しだいに割れ目の
翳りに埋もれていく。