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藍雨
【SM 官能小説】

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藍雨(前編)-1

ぼくが初めて恋した人は、SMクラブの女王様… そして、その人はもういない…。


雨に濡れた紫陽花の花びらの中に、あの人の啜り泣きのような囀りをふと聞いたとき、ぼくは
夢の中で、彼女の涙のあとを追いかけていた。

ぼくは、今でも思うけど、あの人はやっぱり泣いていたのだ。でも、追いかけ続けた彼女は、
藍色の雨の中に霞みながら、陽炎のように消えてしまった…。



あれから、もう何年になるだろう…。

あの人の名前は、燿華さん…ぼくの初恋の女性は、SMクラブの女王様だった。いや、彼女が
女王様だったから好きになったわけではない。今でもそう思っている。

鞭を振り上げたときの彼女は、笑っているのに泣いていたのかもしれないと、今になって、
ふと思うことがある。黒いハイヒールの先端でぼくのペニスを踏みにじり、尖ったヒールで
臀部のすぼまりを捏ねる彼女の顔に、ときどき深い憂いを含んだ切なさが滲みでていることが
あった。

滲み出たものは、やがて一粒の光となり、とらえどころのない淡い雫となり、ぼくのからだの
中を静かによぎっていく。そんなとき、彼女の顔が、氷のように結晶し、悲しい色の顔に変わ
っていったのだ。


そして、燿華さんは、ぼくの思いを知らないまま、突然、SMクラブをやめて、ぼくの前から
いなくなった…。



ホテルの窓の外はうっすらとした靄に包まれた朝の気配が漂い、あのときと同じように藍色の
雨が降っていた。立ち止まった時間だけを感じるホテルの部屋には、ただ雨の雫の音だけが
響いていた。


「ずっと、雨を見ているけど、いったい何を思いだしていたの…」

ベッドの中で、ぼくのからだに寄り添ったに年上の女は、いつ目を覚ましたのか、不意にぼくの
背中に声をかけた。

「十数年前に出会った初恋の人のことさ…」と、ぼくは窓の方を向いたまま、少し恥ずかしげに
小さく呟いた。


「あなたの初恋の人って、どんな人だったのかしら」

「こんな藍色の雨がよく似合う女性かな…そして、あなたによく似ていたような気がする…」

昨夜、初めて出会ったばかりの女なのに、素直に応えられる自分が不思議だった。その理由は
わかっている…彼女に藍色の雨の匂いを感じたからだ。


「その女性って、若い人でしょう…わたしに似ていたなんて、ちょっと恥ずかしいけど…」と
小さく笑いながら、彼女は背後からぼくを抱きよせ、淡い茂みに覆われたペニスにゆっくりと
指を這わせる。


彼女の指先にペニスを触れられた瞬間、生あたたかい芳醇な性の匂いがほのかに漂い、怯える
ウサギの眼のようなペニスの鈴口からは、ぼくのからだの中の青い息づかいが聞こえてくる。

微熱を含んだ彼女の指は、艶々とした湿り気をもち、どこか朝露の濡れた詩情さえ含んでいる。
彼女の掌に包まれたペニスは、ぼくの意識の中で、どこか陰翳を深めながらも、今にも切なく
溶けてしまいそうだった。


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