Invasion Ⅰ-4
エステルの口内へと、ラスプーチンの舌を通して唾液が送り込まれたのだ。ご丁寧にエステルの顎を掴んで顔を上向きに固定しているため、唾液は少女の喉へ流れこんでいく。忌み嫌う相手の唾液を飲まされる。そのおぞましい事実にエステルは手を無意識に振り回そうとするが、天井から繋がる鎖がけたたましい音を立てるばかりだ。少女の抵抗虚しく、重力に従って男の唾液は少女の喉へ到達し、少女は耐え切れずそれを嚥下する。細い喉が男の唾液を受け入れるために大きく膨らみ――そして戻っていく。頭上でやかましく鳴り響く鎖の触れ合う金属音と、エステルの体内で響く唾液を嚥下した音が、エステルに一つの事実を最確認させる。
（わたし……は、『犯されている』……）
強制的に快楽を与えられ、そして男の思うがままの行動を強制される。エステルにとって、それはかつて無いほどの屈辱であり、そして否定しようがない敗北だった。
「ぶっ……はああああ……」
ラスプーチンの唇と舌がエステルから引きぬかれ、エステルは唐突に陵辱から解放される。同時に乳首への責めも止まり、エステルの体は久方ぶりの静寂を与えられた。だが、彼女が息を整える時間を与える程、ラスプーチンは他人本位ではなかった。エステルの正面から背面に移動して、最初にそうしたように彼女を後ろから抱きしめるように抱えた。エステルは男が動いたことで、また新たな責めが始まるのだと予感する。少女は彼女を後ろから抱え込むこの状態に『抱く』などという柔らかな言葉を連想できなかった。
（これは、『捕食』だ）
無数の触手で絡め取られる獲物、それがエステルだ。事実男の指には十の触手が蠢いている。散々少女を痛めつけ、悦ばせた触手だ。その片方が、エステルの顔を這い、口をこじ開けて中へと侵入していく。抗う術はない。少女は抵抗を許されず男の指を咥える。男は少女の口腔を使って指を抽送する。柔らかな唇が男の指に奉仕する様を見て、嗜虐心を満足させたのだろうか、男は久方ぶりに声を出した。
「後で、僕のペニスを突っ込んであげるよ。同じように、ね」
耳元で囁く。ただそれだけで、エステルは背筋を仰け反らせて快楽の雷撃に身悶えた。耳へ吹きかけられる吐息が、少女の体を弄ぶのだ。
（ふざけ……ないで……）
男のペニスを咥える、いや、咥えさせられる自分を想像すると、自然と怒りが沸き上がってくる。おぞましい、汚らしい。だが、同時に確実にその未来が訪れるであろうことを予感せざるを得なかった。エステルがどんなにそれを忌み嫌い、抵抗したとしても、男は必ずそうするだろう。そして、思惑取りに自らの肉棒を咥える少女を見て、あの怖気の走る薄い笑みを浮かべるに違いないのだ。
「それじゃ、我慢してみてよ、声」
「ひゃっ！」
いつの間にか、男は後ろから足を器用に使ってエステルの両足を開かせていた。そして、無防備に開かれた股に手を這わせる。少女の秘部、入り口の周辺を指でなぞっていく。
「あ……あ……」
――愕然とした。
今までの快楽とは決定的に違う、より本質的で、絶望的な快楽だ。自分でさえ弄ったことのないその器官。排泄でしか使わなかったその器官に這う男の指は、エステルを再び恐怖させるに十分な快楽を少女に与えていた。
既にそこは十分すぎる湿度を持っていた。少女が生まれて初めて流す愛液は、男の指をすぐさま湿らして、彼女が今雌になろうとしていることを訴えている。
エステルは予感できた。これはまだ前座に過ぎないのだ。男の指使いは、これから少女の身を焼き焦がすであろう快楽という炎を起こす準備段階に過ぎない。そして、準備などとうに終わっているのだ。
「濡れてる、ねえ」
かあっと、エステルの顔は焼けたように熱くなる。自らの異常を、それも排泄と生殖行為に使うための器官に生じた異常を知られたことによる羞恥だ。ラスプーチンが腕を秘部から離し、エステルの顔の前へと持ち上げる。見せつけるように指を開くと、エステルの秘部から濡れでた愛液が糸を引いてエステルの視界に入る。
「……っ」
目を逸らす。自分自身から出たその液体に関する知識を少女は持っていなかったが、それが羞恥を感じるべきものだということは理解できた。だから、男の指が少女の視界を離れ、再び秘部に添えられてもそれを見なくて済むことにほっとしたのだ。
「ふうん……このまま指で嬲ってイカせて喘がせるのもいいけど……」
ラスプーチンの指はエステルの秘部、花弁に沿ってエステルをいたぶっている。淡い刺激に、エステルは口をだらしなく広げ、小さな吐息程度の声で快楽を訴えている。無論、少女にその自覚は無い。彼女の意志に関係なく与えられる刺激に混乱し、必死に耐えようとしているだけだ。だが、その姿こそが男の中の獣欲を目覚めさせるのだということを知らないのだ。
「……ま、優しくしてあげる義理なんてないしね」
口角を釣り上げたラスプーチンの口から鋭い犬歯が覗く様を、抱きかかえられているエステルは知る由もない。
「うわっ……」
秘部を執拗に撫で上げていた指と、口を犯していた指が波が引くように去ると、エステルの世界は空転する。遅れて気付くのは、彼女がベッドにうつ伏せに組み伏せられたということだ。手錠が外されたらしく、拘束から解放された手首は無骨な木材と擦れてひりひりとした痛みで熱を帯びている。エステルの後頭部には、彼女を押さえつけるラスプーチンの腕が置かれており、その力にエステルは頭を動かすことすらできない。上半身こそベッドに押し付けられているが、下半身は膝立ちで尻を高く突き上げる形になっており、その尻を男の腕が撫で上げていた。
「ぐ……こんな……犬の様な……」