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共犯ゲーム
【SF 官能小説】

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電車と映画館-1

僕は実験体Aの香水は女性の胸に働きかける成分が入っていると思った。
たった2例しかないのに、そういう結論は早すぎるのかもしれないが、女性の胸になんか触れたことがない僕がごく最近こんなにも経験してしまうということは、きっとそういうことなんだと確信したのだ。
だが、そう言いながらもやはり断定はできなかった。

それはある町まで電車に乗ったときだ。
車内が込んで来て僕の背中に何か柔らかい感触が当たってきた。
位置から考えて僕より少し背が低い女性の胸の膨らみだと思った。
電車がガクンと揺れるたびに二つの弾力ある膨らみが僕の背中に押し付けられる。
服地の下のブラジャーの感触とか、さらにその下の乳房の感触がなんとなくわかって、全神経が背中の接触箇所に集中した。
そして、その女性は手で自分の胸をガードしていなかった。
手はなんとなく僕のわき腹の方に添えてあった。
電車が揺れると一瞬僕の胴体に手を廻して抱きかかえるような形になることもあった。
知らない人が見れば僕達は恋人同士に見えたかもしれない。
女性が無防備に胸を押し付けているのはそんな場合以外に考えられないからだ。
僕は電車の揺れに合わせてその女性が自分の胸を僕の背中を使って揉んでいるような気がした。
ほんの幽かだが揺れを利用して乳首を中心に小さな円を描くように揺れているのだ。
僕は電車から降りるとき、分からないように振り返った。
相手の年齢や服装などを報告しなければいけないからだ。
そして会社はときどきエクストラを使って僕が正しい報告をしているかどうかチェックしているかもしれないと思っている。
僕が確認したのは白いブラウスに白と黒のチェックのベスト、黒いタイトスカートの事務員風の女性だった。
髪は幽かに焦げ茶色に染まっていて、僕より少しだけ年上という感じだった。

その日は映画館に入った。
割と空いていて、結構ガラガラだった。
僕は真中の席に座った。しばらくすると若い女性が僕の二つ右隣に座った。
彼女と僕の間には一つだけ空き席が挟まれている。
そこに彼女は自分の上着を脱いで置いた。
途中彼女はトイレに立って、戻って来たとき、僕のすぐ隣の上着を手に取ってそこに座った。上着は膝にかけた。
しばらくすると彼女は両手を首の後ろで組んで胸をそらせた。
伸びをしたかったのだろう。
だが横目で見たとき、彼女の見事なバストがはっきりと浮き出ているのがわかった。
挑発的なポーズに見えないこともない。
そしてちょっと鼻にかかった吐息を漏らした。
僕は映画よりも彼女のバストが気になってきた。
彼女は映画に集中する顔つきをしていたが、両手で自分の胸を包むようにして中央に寄せていた。
無意識にそうしているようであり、意識してやっているようでもあるといった感じだ。
僕は少し体を前に出して椅子に浅く座った。
映画に集中したい為にである。
そのうち映画も山場を過ぎて僕はまたゆったり座りたくなった。
それで椅子に深く座ろうとすると僕の右腕にその女性が左腕を絡むようにして左側の胸の膨らみを押し付けて来た。

「失礼」

僕は小さく囁いて体を前に戻そうとした。すると、それを彼女は押しとどめた。

「良いんです。どうか…そのまま」

また、ゲームが始まった。もともと僕の領域である空間に彼女は身を乗り出していたにも拘わらず、領域を侵したのが僕であるかのように、でもそんなことは気にしないから、黙って映画を観てても構わないよ、といった感じの心の広さを演じているのだ。
だが、これはゲームだ。
このことを問題にしてゲームを壊せば、彼女は悲鳴を上げ僕に胸を触られたと言って騒ぐことができるのだ。
だから、僕は下手をすると僕より年下かもしれない若い女性の胸の膨らみの感覚を右の二の腕に感じながら、しかも相手の絡む腕の感覚までもしっかり感じながら映画を鑑賞し続けた。
僕は考えた。人間の理性と本能は縦割り行政と同じなんだと。
彼女は自分の乳房に性的興奮を感じ、それを僕の腕に押し当てることで満たされるという衝動に走ったのだ。
理性の方でどう考えてもそれはおかしいからやめろという注意がなかったのだ。
全く横の連絡がないといえる。
そして、理性はただ帳尻だけを合わせる合理化を行って、『良いんです。どうか…そのまま』という訳の分からない理屈を通すのだ。
映画が終わって僕はなんと言って離れたら良いのか、ちょっと考えたがこう言った。

「ああ、どうも…」

相手の手が緩んでぬけて行くのを機に、僕は立ち上がり映画館を後にした。 


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