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共犯ゲーム
【SF 官能小説】

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サキちゃん-1

別の日僕は髪が伸びたのでいつも行く理容院に行った。
そこの2階は美容院になっていて、経営者が同じため上が暇なとき美容師さんが交代で手伝いに来る。
そうするとシャンプーとかマッサージをやってくれることがある。
だが髭剃りなどはやることはない。
若い男の客で恋人かボーイフレンドのような相手に髭剃りをしているのは見たことがある。
ところで髪を切ってくれてた理容師が美容師さんにこう言った。

「なに?サキちゃん、顔当たってくれるの?
 じゃ、頼むね。お客さんの眉毛剃んないでよ」

何事かと思ったら、シャンプーですら滅多にやったことのない『サキちゃん』という美容師さんが僕のヒゲを剃ってくれるという。
サキちゃんの細くてひんやりした指が僕の口や頬に触れると、僕はどきっとした。
女性に顔を触られることなど今までなかったことだからだ。
僕はなるべく静かに深く呼吸して、胸のどきどきを悟られないようにした。
だがサキちゃんが僕の顔を剃ろうとして覆い被さろうとしたとき、彼女の胸の膨らみの下側の部分が僕の頭に触れた。

「もう少し首を…」

サキちゃんが僕だけに聞こえるように囁くと僕の首をやさしく回した。
すると僕はサキちゃんの胸の方を見ることになった。
まるで僕は授乳される赤子のように目の前に彼女の胸の膨らみを眺めることになったのだ。
僕は口の中に生唾が溜まってしまい、分からないようにそっと飲み込もうとした。
けれどもゴクンという音がして、サキちゃんに聞こえてしまったような気がした。
それにしてもツンと尖った、その胸はとても形が良くてそれが僕の頭の上とか額に近いところにときどきふんわりと触れるのだ。
でも、サキちゃんはそんなことに気づかないように、ヒゲを剃り続けている。
サキちゃんが顔を近づけて僕の顔の細かい部分を剃るとき、サキちゃんの鼻息がかすかに僕の顔に当たった。
それが妙になまめかしくて僕も思わず鼻息が荒くなりそうになり、また静かに長く呼吸するようにして耐えた。
ヒゲがきちんと剃れたかどうか見る為にサキちゃんのひんやりした柔らかい手が僕の頬をヒゲの生え目に逆らって撫で上げる。
そして、その細い指は僕の唇にも触れて強く押したりずらしたりする。
うっかりその指をしゃぶってしまうのではないかと僕はひやひやする。
だが僕はそっちの方を気にする振りをして、実はサキちゃんの胸の膨らみが僕の頭に結構長い間押し付けられていることに気づかない振りをしていたのだ。
もちろんこんなことは今までなかった。
歯医者さんに行ったとき歯科衛生士さんの胸の辺りの布地がかすかに触ったときがあったが、こんなにはっきり胸の弾力が感じられるほど当たったのは初めてのことだ。
サキちゃんは気づかないふりをして、顔を剃り続けているし、僕も気づかないふりをしてサキちゃんの手が顔に触れている部分に意識を集中するようにしている。
でも、これは葛城さんのときと同じだ。
共犯意識を前提にして成り立つゲームの中にまた僕は閉じ込められてしまった。

それは勿論僕にとっては心地よいゲームだ。
でも、サキちゃんにとっても心地の良いゲームなんだろうか? いやきっとそうなのだ。でもそれは僕のせいではなく、きっと僕がつけている香水のせいなのだ。
普通の状態では決して僕と彼女は対等にゲームに参加することはない。
はっきり言って僕はゲームの相手としては不適格者なのだ。
けれどもこの香水が僕のハンディを埋めてくれたに違いないのだ。
僕は何故かとても申し訳ない気持になった。
そしてこのスキンシップに罪深い喜びのような複雑な気持を抱いた。
僕はこのゲームを壊さずに理容院を後にした。
そして僕はこの件も報告した。それが僕の仕事だから。

 


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