Crusade Ⅳ-3
自ら話していて、ボルジア家の絶望的な未来を感じ取ったのだろう。ブランコ卿は最後には怒気が萎み、弱々しい顔つきに変わっていた。主君たるボルジア家に尽くしてきたこれまでの忠義が、全て水泡に帰そうとしているのだ。それも、その可能性は彼が考える限りかなり高いのだろう。老人の顔は、語らずとも世の無常を嘆いていることがわかる。
「ぁぁぁ……ふぁっ……ぅああ……」
忠義とは、ラスプーチンにとって最も理解できぬ感情だった。彼は怒ったり落ち込んだり、彼の前で百面相を繰り広げる老人を興味深く観察していた。その間にもアナスタシアを責める指使いに手抜きはなく、アナスタシアの菊門が異物侵入に慣れたことを悟ると、何度も何度も抽送を繰り返し始めていた。突き立てられる彼の細い指によって与えられる圧迫感のあとは、それが抜き去られた時に怒涛のごとく押し寄せる快楽が待っている。その二重苦を前にして、アナスタシアの細い体は珠のような汗をかき、震える。人としての最後の一線である羞恥心をなんとか守るため、アナスタシアは懸命に手に力を込め、その嬌声が漏れないように葉を食いしばろうとしていた。
だがその努力は滑稽なものでしか無い。国を憂う重臣の前で、その新たな主君となるべき血筋の王女は、国を貪り食う扇動家の指から与えられる快楽に蕩けきっているのだから。
「それをなんとかするのも、貴公のような『専門家』の職務でしょう？ お恥ずかしいことに私は、下賤の身ゆえそのようなことに無縁でして。とりあえず今日はお帰りください。殿下がお目覚めになれば、ブランコ卿のお話を聞いてくださるでしょう」
「……このまま私が引き下がると思うなよ、ラスプーチン」
怒りの収まったブランコ卿は、静かにラスプーチンを睨む。勿論、ラスプーチンは老人の睨みに何の動揺も感じることはない。頬杖をついていた腕で優雅に老人の退席を促すと、ブランコ卿は最後まで彼を睨みながら、部屋を辞していった。
「放っておいていいいのか？」
「別に大丈夫でしょ？ あの爺さんが何しようと、もう僕達をどうすることもできないんだから」
問いかけるアルバーメフを前に、ラスプーチンは今までの態度を脱ぎ捨てて、素の態度に戻る。自らの髪を熱心に弄びながら、アナスタシアを弄ぶ指を、先程とは比較にならぬほどの強さで引きぬいた。
「アアアアアア！」
ブランコ卿が退室したことで、緊張から解放されたアナスタシアは、その攻撃にあっさりとそれまで我慢していた嬌声を上げてしまう。
「あはは、もう我慢しなくてもいいんですよ殿下？ さっさとイッちゃえよ」
中指でアナスタシアの菊門を責めながら、今度は親指で陰核を擦る。そのたびにアナスタシアの細い肢体は跳ね上がり、快楽に押しつぶされた理性が彼女の口から浅ましい声を上げさせた。ラスプーチンは大笑いしながらアナスタシアへの責めを続ける。
「ほうら、またイクんでしょ殿下？ 片腕で責められて、それだけで簡単に気をやるんでしょ？」
ラスプーチンは身を乗り出し、アナスタシアの頭を掴んで彼の方を向かせる。
「あっ、ご主人様……ンアっ、み、見ない……で」
蕩けた顔を主人に見られるのを嫌って、アナスタシアは必死に頭を掴む手を振り払おうとする。だが、秘部と菊門を責め上げるラスプーチンの指は、簡単にアナスタシアから抵抗する力を奪う。
「あっ、あっ、だめぇ、イクっ……んああ、ひぅ……フゥッ……んはあああああああ！」
連続で激しい抽送が彼女の菊門を襲い、陰核は連続で擦られる。ラスプーチンの狙いすました激しい責めに、アナスタシアはまた彼に前で絶頂を迎えた。快楽に蕩けきり、弛緩した彼女の顔はボルジアという名家の女とはとても思えぬものだったが、その顔を見てラスプーチンは愉快そうに嗤う。無様な姿を晒せば晒すほど、彼にとってはいい玩具なのだ。
「うぬは、相変わらず嫌な趣味を持っておるのう」
ベッドの上で笑い続けるラスプーチンにかけられた声は、アルバーメフのものではなかった。やや高く、さほどの大声ではないはずなのに部屋中に響くその声の主を見据えたラスプーチンは、わざとらしいため息を吐いた。
「なんだオッサンか。出歯亀してたアンタより、ずっと僕のほうが高尚な趣味を持ってると思うけど？」
挑発的な言葉の先には、マントを羽織る一人の男がいつの間にか部屋の片隅に寄りかかっていた。短くまとめられた黒髪に、浅黒い肌。そして何より目を惹くのはその眼光だった。切れ長の目に収まった茶色の瞳から発せられるのは、形容し難い威圧感を放つ光だった。それは凶悪とも、清浄とも言いがたい不思議な光で、見る者を圧倒させると同時に、惹きつける魅力のようなものを備えていた。そして、その異様な眼球は彼の顔に一つしか備わっていない。彼の左目は、黒い眼帯によって覆われているのだ。
ラスプーチンもアルバーメフも、その男の存在に驚くことなくそれぞれの反応を示している。憎まれ口を叩くラスプーチンと対照的に、アルバーメフは彼に対して深く一礼する。
「おうおう、糞ガキが偉そうに吠えるのう。……それで、首尾はどうか」