Crusade Ⅳ-2
薄く笑いながらそう語るラスプーチンの言葉は、だが正論だ。ブランコ卿はこの男に対する怒りを顔に出しつつも、非礼を詫びるしかなかった。天蓋付きのベッドに腰掛けるラスプーチンは、老人が騒ぐのを尻目に、中断していたアナスタシアへの愛撫を再開する。重臣を前に開始された責めに、四つん這いだったアナスタシアが目を見開いてラスプーチンを振り返った。だが、ラスプーチンの瞳は残虐な色を湛えてアナスタシアを見返す。それだけで主人の意図を悟ったのだろう。アナスタシアは絶望的な表情をしながらも、彼女に強引に快楽を与える指が蠢いたのを感じ取り、慌てて両手でその口を塞いだ。
「今回の件は、単なる尋問の予定だったのですよ、ブランコ卿。後継者問題に口を出そうとして法皇庁がスパイを送り込んで来たことがわかりましてねえ。……領内の聖職者をその件で尋問せよ、と仰る殿下のご命令に従ったまでです」
果たして本当に『殿下の命令』だったのか。その真偽を考えるまでも無いのだろう。ブランコ卿はその言葉に反応して再びカッと目を見開いて目前の魔術師を睨む。対するラスプーチンは涼しげにその睨みを受け流し、腕一本でアナスタシアを弄んでいる。
今回は菊門への責めを重点的にするつもりらしい。先程からしつこく菊門周辺を撫で、つついている。アナスタシアはびくびくといちいちその責めに反応してしまう。
「それが、なんとも『不幸なことに』、騎士団の一部が暴走して教会への焼き討ち、聖職者の殺傷に至ったわけです。領内がこの混乱状態ですから、おそらく騎士団の兵も興奮していたのでしょう」
「貴様、そんな言い分で私が納得するとでも思っておるのかッ！」
我慢できなかったブランコ卿は再び怒声を上げた。
「貴様がリモナフから流れて殿下に取り入った後、この木偶の坊が率いる傭兵団を王立騎士団に編入したのは貴様ではないか！ その傭兵団が領内で暴れて、それが『不幸な事故』だったなど、誰が信じるものかッ！」
木偶の坊、と言って視線を向けた先には、黙って事の顛末を見届けるアルバーメフの姿があった。アルバーメフは、自分に対する罵りの声に反応することなく、老人を見下ろした。口の利けぬように沈黙を守るアルバーメフは、ブランコ卿の言うとおり木偶の坊のようであったが、兜の隙間から見える双眸の光はブランコ卿を竦み上がらせるのに十分だった。
「んぅっ……・ふぅ……」
老人とのやり取りが面白いのだろうか、ラスプーチンは機嫌よく喉を鳴らして嗤う。勿論ブランコ卿には気づかれぬほどの大きさだ。そしてその指が突如としてアナスタシアの菊門を分け入って腔内へと侵入した。アナスタシアはその圧迫感に思わず小さなうめき声を漏らす。
「ブランコ卿、貴公が信じなくとも、問題はないのです。なぜならこれは紛れも無い事実であり、殿下がお目覚めになればそれを強く肯定してくださることでしょうから。……今はそんなことよりも、東方の国境線に軍備を増強することをお考えになったほうがよろしいのでは？ 軍事に関しては、貴公の得意分野でしょうから」
ラスプーチンの言葉は、慇懃ではあったが、甚だ無礼であった。その声色には隠そうともせず目前の老人を蔑む色が含まれており、足を組んで頬杖をついたまま老人を見据える瞳は冷えた嘲りの情が浮かんでいる。
「法皇庁と、クーパの軍勢に攻められてはひとたまりもないではないか！ 今や我らは聖敵、神の敵とみなされたのだぞ。兵の士気は下がる一方だ！ こんな状態で戦っても逃亡兵が出るばかりだとわからぬかッ！ 各地の領主も、ボルジアを見捨ててクーパに寝返る者が出るやもわからぬ……」