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異形の妻乞い
【近親相姦 官能小説】

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第6章 -1

なさぬ仲ではあったが、才気あふれる慧次郎をゆくゆくは後継者に…弦一郎はある時まで強くそう思っていた。
早希がいて、あれほど優秀な慧次郎を経営に据えれば、弦一郎の事業は向かうところ敵なしだと確信していた。“あの日”までは―。

慧次郎が来春に受験を控えた8月初旬、得意先の会長の急死の一報を受け、弦一郎はその週の予定を全て変更して神戸に向かわねばならなくなってしまった。
その週はゆりえと早めの夏期旅行の予定が入っていた。
『…すまないな。人の命は思うようにならんものだ…』葬儀参列の返事をして受話器を置いた弦一郎は疲れた表情で後ろで様子を聞いていたゆりえに詫びた。
『いいんですよ。京都なんてこれから幾らだって行けますし』ゆりえはてきぱきとガーメントケースに喪服と黒ネクタイ、黒の靴下を入れ、小さなボストンバッグに一泊用の弦一郎の身の回り品を詰めながら不満気な様子もなくそう答えた。
『いや、キャンセルすることはない。私一人が一泊遅れて京都に合流すればいいだけの話だ。お前は先に京都を楽しんだらいい』そう言うと弦一郎は慌ただしく神戸に発った。
だが悪いことは重なるものだ。
参列を終え、神戸のホテルで寛ぐ弦一郎に長男である優の人身事故を知らせる一報が入った。
聞けば優は前方不注意で追突事故を起こし、相手のドライバーと助手席の女性が怪我を負ったと言う。なお悪いことに女性は重傷だった。
のんびり旅行すら出来んのか―。今年は何の厄年だ…。うんざりしながら京都にいるゆりえに事情を説明し、一人で東京に戻ったのだった。
『…で、どんな様子なんだ。…え?鼻を陥没骨折…?…わかった。知り合いの整形外科医に連絡する。秘書の八木原に連絡してその女性を転院させる手続きを取りなさい。あと弁護士の金井には…?そうか。いいか、あいつに全部任せろ。示談条件には可能な限り応じるよう言ってくれ。のちのち変にゆすられてもかなわんからな』
飛び乗った東京行きの新幹線から優に電話をかけて一頻り指示を済ませると、整形外科医の梶山に連絡を入れた。苛々しながら慌ただしく方々に連絡をするうち、のどかな田園風景はあっという間に素朴な住宅街になり、そして間もなくビルの林立する見慣れたグレーの光景に変わっていった。

徒労感に支配されて弦一郎の体はいつになく重い。転院させた女性に挨拶と詫びを済ませそのままタクシーを拾った。工は出張中だ。早希は会社だろう。慧次郎は今日は予備校か…?
そう思いつつ鍵を開けると人の気配がする。誰がいるんだ…?
トイレと浴室のある場所に手洗いがてら向かうと、浴室のすりガラスの向こうに人影がある。体格からして慧次郎だ。ガラス戸越しからくぐもった切なげな声が漏れてくる。
何をしているか、男の弦一郎にはすぐに判った。まさかなさぬ仲の息子の自慰に出くわすとは―。一体自分はどこまでついていないんだ。
うんざりしながらダイニングに向かい、冷蔵庫からビールを出すとグラスに注いで一気にあおった。
すると―。
ボクサーパンツを穿いただけの慧次郎がそこを通りがかった。ダイニングが家族それぞれの個室の中央に位置しているため、それぞれの部屋に行くにはダイニングを通らざるをえない。慧次郎は手に何やら持っている。それが何なのかを悟った瞬間、弦一郎の全身から血の気が引いた。それは、早希のブラウスだったのだ。
『―慧次郎。何を持っている』居るはずのない義父の険のある突然の問いかけに慧次郎は体を硬直させた。
『あ…の…』
『風呂場で何をしていた…!…その、早希のブラウスを持って何をしていたんだ!!』言葉につれ一気に高ぶった弦一郎の言葉はとどまることを知らない。
『慧次郎。お前は姉にそんなみだらな感情を持っていたのか。のみならず、お前はそんな卑しい行為に及べる神経の持ち主なのか!!』
そこへ、京都から帰京したゆりえが帰宅した。
『何を声を荒らげているんです?』割って入りつつ、慧次郎の手に持ったものとその出で立ちに事情を察したゆりえは、
『弦一郎さん、慧次郎さんはまだ18歳なんですよ。色々と制御できないものを抱えている年頃です。そんなに激昂なさらずとも』
ゆりえが言い終わらぬそのとりなしに覆い被せて
『年頃云々の話か!同じ屋根の下に暮らす姉に欲情する弟なぞ、どうかしてると言わざるを得まい!お前は慧次郎にどんな躾をしてきたんだ!』弦一郎の怒りはおさまるどころか激しくなる一方だ。仕事人間の男そのものの貧しい発想にゆりえは些かうんざりした表情を浮かべながら、『…いいじゃありませんか。どうせ若気の至りでしょう。それに、たとえ慧次郎さんが想ってたって早希さんが返さなければ良いことですもの』
そう、ゆりえはさも楽しそうに朗々と言ったのだ。その動じない、寧ろ歓迎するようなゆりえの反応に何やら恐ろしいものを感じ、
『なんだ…と?ゆりえ、お前、自分が何を言っているのか、解っているのか!!…慧次郎、いいか、今後早希と言葉を交わすことは一切許さん。見ることもだ!!!わかったな!!!』慧次郎を射ぬくように見つめて弦一郎はそう厳命した。
この日を境に弦一郎とゆりえ、慧次郎との関係は決定的に変質してしまった。


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