第4章 展開-13
律子の仕事にかこつけたブティック巡りなどにも付き合わされました。自分の物だけでなく、私の普段着や日常品までの買い物を楽しんでいる律子を見ているのは、疲れますが楽しくもありました。疲れてカフェに入っても、私は、コーヒーも紅茶も好きではなく、飲めるのはホットミルクかせいぜいハーブティーくらいです。私はそんな時の律子を見ていて、少し納得したことがありました。私が買い物やそうした場所を好まないのは、聞き方によれば自意識過剰に思われそうですが、私を見る人の目がいつまでたっても苦手なのです。律子はそんな私にベッタリともたれかかり、もう、自分が何に悩んでいたのかをすっかり忘れしまったように、私を見せびらかしているように感じたのです。
＜だって……私のお姉ちゃんをみんなに見て欲しいんだもの……＞と、私の問いに対してあまりにも素直に認めるのです。私の内気の訳を話すこともばかばかしくなるほど子供じみたところがありましたが、私はそういう律子が可愛くてたまりませんでした。
ある日、律子の会社関係でファッションショーがあるので一緒に行って欲しいと言われました。あまり気乗りがしなかったのですが、熱心に誘うので仕方なく付き合うことにしました。
毎朝日課のようにしてくれる私の髪の手入れを、一際念入りに整えてながら、
「お姉ちゃんの髪型、今日は少し変えますからね」
「ご自由に。リッコに任せるわ」
いつもの巻き揚げの髪は降ろされ、綺麗なカーブが作為を感じさせずに整えられていました。ちょっと気分が変わる髪型でした。
律子は、私の手を引っ張らんばかりに先導しながら、＜ショーの前にちょっと寄り道＞と言って、センスの良さが感じられるファザードのブティックに入りました。ボンヤリと店内を見回している私の耳に、ヒソヒソ話をしているつもりの律子と店員の声が聞こえました。
「まあ……なんて素敵な方。あの方が律子さんの話してらしたお姉さま……？」
「そうよ。綺麗でしょ私のお姉ちゃん」
「ほんとお美しい方……でもお洋服が……高級ですけどちょっと流行遅れのようですわ。律子さんのご依頼通り5着ご用意しておきましたから、それをお召しになればどれだけ素敵に変身なさるかしら。これからお見せしますね」
「お姉ちゃん、こっち、こっち」
律子に促されて、指定された椅子に腰掛けました。
「お姉ちゃん、こちら絵美さん。ここの店長をなさってるの。絵美さん、こちら……翔子さんよ」
律子は、はにかみながら絵美に私を紹介しました。
店長だという絵美は、バレリーナのように髪をまとめて小さな顔が引き締まり、いかにもキャリアウーマンといった感じで颯爽としていました。律子も女の子としては背の高い方なのですが、3人で並ぶと、大・中・小といった感じで、律子がとても愛らしく小柄に見えるのでした。
ブティックの脇のカーテンが開いて、美しいマヌカンが格好を付けて私の前で止まり、ゆっくりと回転したり上着を脱いだりして引っ込んでいくと、次のマヌカンが違った洋服で同じような動作をし、5人目のマヌカンが出てくる歩調に合わせて全員が私の前でにこやかに整列し、私に微笑みかけて回転するのです。
律子と絵美は、私の両側に立ってマヌカンの動きを見ていましたが、マヌカンの動きが止まると、
「お姉ちゃんはどのお洋服がお好き？」と聞きました。
「どれも素敵ね。派手じゃないし……上品だと思うわ」
「私、こんなにも素敵に出来上がるとは思わなかったわ」
「リッコがデザインしたって言っているの？」
「いえ、そんな……。私が大好きなデザイナーさんのデザインをお姉ちゃんのサイズに仕上げて頂いたの」
「え？……翔子のサイズに……？」
「ええ。お姉ちゃんは背が高いから、モデルさんもお姉ちゃんに似た体型の方を揃えて頂いたの。絵美さん、これだけのモデルさんを揃えるのご苦労なさったでしょ？」
「いいえ、苦労だなんて……。ただ、律子さんのお話からはあまり想像できませんでしたから……まさか、ここまでお美しいとは存じませんで……」
「いえ、このモデルさんたちも、みなさん背が揃っていてお綺麗ですわ。お姉ちゃんがこのお洋服を着たところが想像できますもの」
「ありがとうございます。今日、お姉さまはどれをお召しになりますか？」
「私、今日はこれがいいと思うの。そのつもりのお洋服だから。こちらは、音楽会とか。これは……そうね……少しスポーティーなものがいいな、と考えたお洋服だから……旅行とかね……」
律子は、ひとりではしゃぎながらモデルの回りを動き回り、自分で決めた洋服を着たマヌカンに囁いて引き取らせました。やがて、共に付いていった絵美がテキパキとした動きで私の前に恭しく畳んだ洋服を差しだし、
「あの……ご試着頂けますか？」