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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第4章 展開-14

 私は、彼女たちの一連の動作を、まるで映画の場面を見ているようにぼんやりと眺めておりましたので、
「翔子……私が着るのですか……?」と的はずれな答え方をしてしまいました。
「当たり前じゃありませんの。お姉ちゃんのために作って頂いたのよ。早く着てみて頂戴」
 律子に促されて仕方なく試着室に入り、着替えていると、
「バッグとお靴は用意して下さったかしら。あ、これ? 素敵。さすが絵美さんね。あなたのセンスにはいつも敬服するわ」
 なんて言っている律子の大きな声が聞こえました。
 試着室を出ると、着替えを済ませたマヌカンたちがワッとばかりに私を取り囲み、<素敵……私たちよりモデルみたい……>などと囃し立てるのでした。律子は自分が褒められているように紅潮し、両手で頬を挟みながら涙ぐんでおりました。
「リッコ……翔子のためにこんなことをしていたの?」
「お気に召さない?」
「いいえ。着飾ったような派手さがなくて、とってもシックリ身体に馴染んでいるわ。リッコったら、何時の間に翔子のサイズ計っていたの?」
「内緒よ……あァ、でも、ホントすばらしいわお姉ちゃん。素敵、素敵」
 律子が私に抱きついて胸のあたりに顔を埋めようとすると、
「律子さん……お洋服が……」と絵美が慌てて律子を抱きかかえました。
「リッコ、これがファッションショーなの……?」
「いやだ。ショーへ行くために、お姉ちゃんにこのお洋服を着て頂きたかったの」

 ファッションショーが始まろうとしていました。
 少し照明を押さえた会場がざわめいておりました。律子は私の腕を掴み、ウットリした目で私を見つめているので、<どうしたの?>と聞くと、<私のお姉ちゃんなんだから>なんて訳の分からないことを言ったのです。<翔子は律子のものじゃなくって。今更何を言っているの ?>と言うと、<だって、会場のあちこちの男や女どもが、お姉ちゃんを狙っているんだもの><ばかね。そんなことあるわけないじゃない。会場が華やかだからよ>
 中央に張り出したステージが照明で照らされ、音楽に乗って華やかな衣装を翻しながら美しいマヌカンたちが次々と表れては消えていきました。音楽には頭が痛くなるような嫌悪感を覚えましたが、華やかな蝶々たちの乱舞は、私がかつて味わったことのない高揚感を与えてくれました。
 マヌカンは、何人かでローテーションが組まれているらしく、衣装を代えた同じ顔が何度かステージを往復しました。その中の外人モデルの一人で、私と目が会うと瞬きもせずに回転し、もとの位置に戻るとまた私の目を強い光で貫くのでした。私も、最初にその視線を感じたとき心臓が大きく鼓動を打ったのです。そのフランス人らしいモデルにミニョンの面影を見たからです。そのモデルは、3度目になると、明らかに私に微笑みを送ってきたのでした。
 会場が拍手に包まれ、マヌカンと共に、今日の作品のデザイナーらしい女性が躍りながらステージに現れました。その時も、そのマヌカンは私だけを執拗に見つめていたのでした。
 私はその夜、眠っている律子を抱きながら、今日のマヌカンの視線が脳裏から離れませんでした。ミニョンが凄まじい勢いで私を襲ってくるのです。<ああ、ミニョンに逢いたい>胸の中を激しい涙が滝のように落ちていきました。<行かなければ良かった……><行って良かった……>。相反する思いが交錯して、私は、眠っている律子のにキスをし、狂ったように攻めました。律子はそんな私の激しい愛撫の意味を知らず、息も絶え絶えに果て、しらじらと冷めていく私の胸の中で眠るのでした。

 私の衣服を作ってくれたブティックは律子の勤める会社のグループらしく、常に会社のアンテナショップ的な機能の存在として、律子はこのブティックと親密に行き来していたそうです。それで、私の草臥れた洋服を新調する機会を、絵美という店員と企画していたようでした。律子が言うには、私をそのブティックの専用モデルにしてはどうかと相談していたらしく、私は体のいい面接をされたようなものでした。もっとも、その後律子が言うには、私はモデルとしては失格だそうです。モデルは美しくなければいけないけど、主体の衣服が霞んではいけないそうで、私が着ると、衣服が映えるのではなくお姉ちゃんが主体になってしまうから、デザイナーはお姉ちゃんをモデルにするのは避けるだろうですって。
 褒められているのかけなされているのか、いずれにしても私は、あんな舞台で自分を晒すのなんて決してできる性格ではないので、ホッとしながらも、草臥れた洋服でも平気な私が、そんなに美しい、素敵だ、と言われるのが、未だ他人事のように聞こえてしまうのでした。

 ファッションショー以来、初めて絵美が律子に伴われてやって来ました。


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