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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第1章 脱皮-9


 ミクという親友ができてからの1年は、楽しい分だけ早く過ぎ去った感じがしました。
 もうひとつ、1年を短く感じさせた大きな変化がありました。その年のクリスマスイヴ、母が呼び寄せたフランスからの留学生、ミニョン・リシュリューという女性が同居するようになったことです。母と二人だった広い家で一緒に食事をし、朝風呂の習慣ができ、そして家庭学習を受けるという生活は、一人で居る時間が多かった私にとってはとても大きな変化でした。
 母は毎日自分の経営する会社へ出かけ、ミニョンも学校へ出かけた日は、安心してミクを呼び、二人が開発した喜びの沼の中に浸っていることができました。ただ、それまでのように、頻繁に会えないのが苦痛でした。
 日にちを置いて会うミクは、私服のせいもあるのでしょうが見違えるように大人びてきて、私は、その遊びをする前から下半身が潤ってくるのを押さえ切れませんでした。二人は余程大人びた世界に入っていたのでしょうか。ふと、私の部屋の匂いや私の仕草が、体を近づけるミニョンには分かってしまうのではないかという不安が頭を過ぎったりしました。
 ミクには、ミニョンのことを話しました。ボッティチェリの絵を指さしながら、<この人みたいなの>と言うと、ミクは一瞬悲しそうな目をして私を睨みました。そして、多分、この美神のようなフランス人に心を奪われていくだろう、と私をなじり、否定する私との間には、さらに激しい炎が燃え上がるのでした。

 また、胸が高鳴る夏休みが回ってきました。
 去年のように自由で奔放に遊ぶのは無理だとしても、ミクとの時間は多くなるだろう、と、期待しておりました。
 ところが、夏休みの予定を立てようと連絡したミクの家の電話は、いつの間にか不通になって、時間を変えて何度ためしてもコールしていない状態でした。この一週間あまり、ミクが登校していなかったことが不安をかきたて、私は居ても立ってもいられずにミクの家に急ぎました。
 ミクの家は、前庭の花壇の花々も萎れていて、雨戸は閉まり、生活を感じさせるものが何もありませんでした。表札の跡も白っぽい門柱にもたれて立ちつくすより他ありませんでした。ちょうど表に出てきた隣家の女性に訪ねると、要領の得ない答のなかで分かったことは、急に海外へ移住したようだ、という、恐ろしい事実だけ私から考える力を奪ってしまいました。
 どのように帰宅したかも思い出せないほどの放心状態は、ただ、<どうして?どうして……?>という疑問符だけが頭の中を回るだけで、居間のソファに身を投げだしてボンヤリしておりました。
 既に夏休みに入っているミニョンが家にいました。私の異常を感じた彼女は私を抱きしめ<なにか、辛いこと、あった……かわいそうに……>と言って、黙って私の髪を優しく撫でながら、あやすようにしてくれました。ショックが大きかったので、涙も出ませんでした。ミニョンの少し汗ばんだ体からラベンダーのかすかな香りが私を落ち着かせ、やがて、堂々巡りでしかない考えに疲れてしまった私は、優しい母のようなミニョンの胸で眠ってしまいました。
 <どうして……?>という疑問符から抜けきれない私は、眠れない夜が続いていたので勉強の時間にふと意識がなくなることもありました。
 <Au revoir(さようなら)……あった?>
 ミニョンはなにかを察しているかのようにつぶやき、私の頭を抱いて自分の胸に誘うのでした。私は、ミクのことも、急に消えてしまったことも言わず、ミニョンの胸にもたれて夜の眠不足をで取り戻していたのです。
 そして、私の運命を変える夏の一日を迎えたのでした。


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