シグナル¨5¨-4
「はは、すっげえなぁ弥生。迷いもしなかったぜ」
「今度はお前だ!赤熊!」
「うおっ?!てめ速人・・・うわーーー!!」
速人に蹴飛ばされて賢司が背中から流れていった。
本人には悪いが我慢できず、思わず吹き出してしまう。
「おいこら!てめー、降りてきたら覚えとけよ!」
怒りの声がここまで聞こえてくる。
でもその矛先は係員に怒られて滑るどころじゃない。
人を蹴飛ばしてはいけません、なんて普通はなかなか言われないよな・・・
「今の面白そう。じゃあ行きまーす!」
「あ、杏子?!顔からいったら危な・・・!」
妹尾さんの忠告も耳に届かず、葉川さんは顔から滑り落ちていった。
みんなテンション上がってるなぁ。僕は真似できないよ。
順番だと次は妹尾さん、だけど滑る事ができるだろうか?
「成敏くん・・・」
やっぱり怖がってる。
そうだよね、高所恐怖症にとって見下ろすっていうのは本当に恐ろしい。
「待ってるからね」
妹尾さんは深呼吸し、一気に滑り落ちていった。
あまりに突然だったので僕は返事も出来ず、ただ彼女がプールに落ちるのを見てるしか無かった。
「せ、妹尾さんもういっちゃったの?」
いま、待ってるからって言ってた。
僕が滑ることが出来るのを信じてる、ってこと・・・?
妹尾さんは震えてた。それでもちゃんと出来たんだ。
だったらきっと僕にだってできる、必ず・・・!
「よ、よし・・・うう・・・」
ダメだ、下見ちゃった!
みんなの顔が小さく見えるよ、怖い、怖いよ・・・
勇気を出すんだ、水は苦手だけどプールに来れたじゃないか。きっとこれも克服できるはず。
・・・や、やっぱりだめだ、怖いよ!
「一緒に行こうぜ、相棒」
肩に腕を組まれた、と思った瞬間、僕の体は勢い良くスライダーを滑り落ちていた。
水がひたすら僕の顔面にかかって息が出来ない。背中が妙に冷たくて、足の裏までひんやりした。
「みんなただいま!無事に戻って来たぞ!」
そうか、速人か。
僕を滑らせた犯人は。
「おう、お帰り。今度は海に還るか?」
「ガボガボ・・・しゃ、シャレの通じないやつだな、うわぁああやめろガボガボ」
早速賢司に頭から沈められている。
よく潜る奴だな、さっきから。
「ねえ速人、あのさ・・・さっき妹尾さんが言ってたこと聞こえた?」
「はあ?何のことだ、知らんぞ。それより助けガボっ」
聞こえなかったのか。結構小さい声だったからな。
じゃあ・・・あれは僕にしか聞こえなかったってことか。
分かっててふざけたのかと思ったけど、速人もそこまではしないよね。