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シグナル
【青春 恋愛小説】

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シグナル¨1¨-1

鏡の前にぎこちない笑顔の僕が立っている。
それは着慣れないスーツを身につけているせいもあるが、入学式を控えているのが理由だと思う。

(僕もとうとう大学生、か。なんかまだ実感わかないなぁ)

格好だけなら、入社式を控えた社会人一年生に見えなくも無い。
でも大丈夫、学生だからそんなに気張らなくてもいいはずだ。

「じゃあ母さん、そろそろ行ってくるね」
「行ってらっしゃい成敏(なるとし)。帰りはいつになるの?」
「ちょっと遅くなるかな。友達と寄り道するかもしれないし」

そうだ、たった一人で行くわけじゃない。
待ち合わせしていた事を思い出したら、急に心が軽くなった様な気がした。


ちょうど駅はラッシュの時刻で、沢山の乗客でごった返していた。
これから4年もこうなのか、早くも挫けてしまいそうになる。
いけない、もう高校の僕とは違うんだ。しかも入学式の日にやる気を無くしてどうする?
まるで飛び込む前みたいに、胸一杯に空気を吸い込んで、電車に傾れ込む人の波に体当たりした。



なんとか目的の駅に到着し、エスカレーターに乗りながら手で顔を扇ぐ。
まだ4月なのにこの暑さはどうなってるんだ。着慣れないスーツのおかげで、余計に汗をかいてしまった。

改札を出るとタイミング良くメールの着信が・・・

¨こっちは2つ前の駅だがもう着いたか?¨

賢司からだ。
僕はすぐさま到着したと返信した。
その直後に着信があったのでいやに早いなと思ったら、違う奴からのメールだった。

¨トイレ行くから遅れる。でもすぐ行く¨

・・・速人からか。
相変わらずいい加減だな、これじゃ何処にいるか分かんないじゃないか。
どうやら僕が最初に到着したらしい。賢司も速人もすぐ来るだろうし、少し待とう。

駅の出口を出てすぐのコンビニ、ここが待ち合わせ場所だ。
合格してから3人で下見に来た時に決めたんだったな。

あれは確か高校の卒業式より前だったか。
賢司も速人も一人暮らしの準備で忙しいのに、向こうの方から誘ってくれた。

(・・・いつも後からついてくだけだよな、僕って)

遊びに行く時も、行事の時もいつもそうだった。
つい最近までそれを疑問に感じる事すら無かったけれど、大学に入学したのを切っ掛けに自分を見つめ直してみた。
そこでようやく気付いたんだ。
でも・・・だからといって何かしようと思い立った訳でもない。
大体、今まで人に流されるままだった僕の人生が、そう簡単に変わる訳無いじゃないか。

あるのかな、何か。何でもいいから変われる切っ掛けが・・・

でもそんなもの、石ころでもあるまいし転がってるはずがないよね。



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