春B+3.5-1
もう屋上には行かないと言っていた睦月さんだけど、だからって食堂に来る事もなかった。
一体どこでお昼食べてるんだろ。
全く顔を合わせてないわけじゃない。事務所に行けば会えるし、現場ですれ違う時だってある。
その度に睦月さんは笑いかけてくれる。
でもその笑顔は俺が好きになったあの顔じゃないから、例えるなら睦月さんに双子のお姉ちゃんがいたらこんな感じみたいな…、とにかく、俺の知ってる睦月さんじゃない気がした。
食堂で昼休みを過ごすのが嫌い。
別に睦月さんの真似をしてるわけじゃない。
ザワザワ騒がしくて、休憩なのに仕事の話が始まって、一緒に食べたくもない奴と隣同士になったりして、とにかく落ち着かない。
屋上の、時間がゆっくりと流れるあの雰囲気が好きだった。
睦月さんと並んで食べるご飯は美味しくて幸せだった。
…過去形。
やだな。
知らない間に自分の中で過去の事にしていたなんて。
今日から新入社員も残業開始。
帰宅時間が睦月さんと同じになれるこの時をあんなに心待ちにしていたのに、今となってはダルいだけ。
そんな俺の気など知る由もない小松さんが呑気に声をかけてきた。
「良かったな、残業始まって」
「…ちっとも良くないですよ」
「何でだよ。あんなにやりたがってたくせに」
「あの時と今では状況が違いますから」
「なんだ、それ?」
眉間にシワを寄せて聞き返すその顔が、失礼だけど気が抜けるくらい間抜けで。
「ふられました、睦月さんに」
隠すのもアホらしくなって素直に白状した。
「マジで?」
「マジですよ」
「いつ?」
「…やけに食いつきますね」
「いいからいつだよ」
「結構前ですよ。小松さんに頼まれて本社に行った次の日…」
「マジか!」
「だからマジだって―…、…随分嬉しそうですね」
「ん?」
「後輩の失恋がそんなに嬉しいんですか?」
「いや、そーゆうわけじゃ」
目が泳いでる。
顔が薄く笑ってる。
俺をまっすぐ見ない。
「…何か、知ってますね」
「別に」
この人は睦月さんとは同期で睦月さんの本性も知ってる。
俺に睦月さんはやめろとまで言った。
もしかしてこの人…