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【片思い 恋愛小説】

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「春っすね」
「春ね」

数ヶ月前とは一変、茶色がかった景色は色とりどりの花のおかげでカラフルに仕上げられ、鳥の鳴き声もどこか明るい。

会社を取り囲む桜の木は、花のピンクと葉っぱの緑が綺麗。遠くに目をやると藤棚の薄紫が見えた。

「俺、春好きなんすよ」

暖かい空気に包まれているせいか、自然にそんな言葉が口から漏れ出す。

「睦月さんは?」
「嫌い」
「…」

同じ回答を求めたのに、その期待はもろくも崩れた。

「嫌いですか?」
「嫌い」
「何で?なんかワクワクしません?」
「何で?」

質問返し。

「何でって…、寒くて厳しい冬が終わって、桜も咲いて」
「あたしは冬のがいい」
「…寒いじゃん」
「着りゃいいじゃん」
「出かける時かさ張るじゃん」
「出かけなきゃいいじゃん」
「出かけたいじゃん」
「あたしはインドア派なの」

出かけたいじゃん…
ていうか、じゃんじゃんうるせえよ。

「花見!綺麗だよ?楽しいよ?」
「人ゴミ嫌い」
「じゃあさ、公園は?それか堤防沿いをぷらぷら散歩とか」
「目的もないのに出歩くの嫌いなの」
「いや、それもなかなか楽し…」
「っくしょん!」

大きなくしゃみを出すと、睦月はポケットティッシュを鞄から出して、豪快に鼻をかみ始めた。

「花粉症なの」
「あ…、そうっすか」

そりゃ春は嫌かも。

「じゃあ夏に――」
「日焼けするから外に出ない」
「秋に――」
「肌寒くなるから嫌」
「着りゃいいじゃん」
「冬でもないのに?」
「じゃあ冬」
「寒いから外には出ない」
「着りゃいいじゃん!」
「かさ張るから嫌」
「…」

デジャヴか?
似た様なセリフを何度も繰り返した気がする。

俺の隣に座るお姫様は携帯をカチカチいじりながら、俺の意見をことごとく否定し続けた。


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