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【片思い 恋愛小説】

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春2.5-10

お昼休みが終わって事務所に戻ると、カウンターの上に現場から注文された部品が何箱も届いていた。
発注用のノートと品番を照らし合わせて発注主にそれを届ける作業中、

「…」

永沢という名前を見つけた。
渡しに行って、そのついでに言うか。
小松の思い通りになるのはしゃくだけど、仕方ない。
永沢の方からあたしを切ったんだ、あたしもそうしなきゃ…

「…よし」

小さく気合いを入れて、業務用の笑顔を作った。
何年も被り続けた仮面なのに、永沢を見つけると壊れそうになる。

「永沢君」

機械の轟音に消え入りそうなあたしの声を永沢は聞き逃さなかった。

「あなたが頼んだ部品が届いたから」

頑張れ、あたし。
笑え。
顔を作れ。

「あの、俺…、あの…、すみませんでした。もうあそこには行かないんで睦月さんは――」

あたしにはそんな顔向けるんだ。
あの子には笑いかけるのに。
何であたしにはそんな泣きそうな顔をするの?

「あなたに見つかった時点で、行くのやめようと思ったから」

ウソだ。
あたしウソ吐いてるよ。
気がついてよ。
ウソだって見抜いてよ。
あたしは永沢といたかったよ…

「じゃあね」

振り返っても、永沢は何も言ってくれなかった。

大声で泣きわめきたい気分なのに、あたしは笑顔だった。
たくさんウソを吐いてきたから、ウソを吐くのが上手くなりすぎた。
永沢にあたしの気持ちは届かない―――



春が嫌い。
外に出た瞬間花粉のせいで鼻がムズムズするから。
虫が大量発生するから。
必要のない出会いがあるから。

永沢に会えて、初めて春を好きになれた。

でもやっぱり嫌いだ。
永沢が綺麗だと言った藤棚も葉桜も、全部くすんで見えるから。

世界の終わりってこんな色なのかな…

実際そんな日が来るのかどうかなんて知らない。
でももし世界に終わりがあるのなら、今がいいなって思った。


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