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【片思い 恋愛小説】

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春B+3.5-8

「睦月さぁん、これ分からないんですけどぉ」

事務所の新入社員は相変わらずバカなふりをしてあたしの仕事を増やそうとする。

あたしもバカだなぁ。
"仕事のできる優しい先輩"なんて看板、いつまでもこいつの為に掲げる必要なんかないのに。

「ねぇ、」
「はい」
「いつまで続けるの?バカなふり」

そう言いつつも、業務用の笑顔だけは忘れない。
端から見たらあたしがこのバカに親切に指導してるように見えるはずだ。

「…え?」

新入社員の笑顔が曇る。

「入社して随分たつでしょ。そろそろ本性現してもいいんじゃない?」

それを聞いた新入社員は一瞬眉毛をピクリと動かしたけど、すぐに元の笑顔に戻った。

「あたし、初対面の時から何故か睦月さんの事が気に入らなかったんですよ」
「へぇ?」
「やっと理由が分かりました。あなたはあたしと同じ人種だったんですね」
「そうみたいね」

笑顔で答えると、質問する為にあたしに差し出していたファイルを自分の方に抱え直した。

「分からないんじゃなかったの?」
「分かりますよ」
「そ。じゃあ早く取り掛かってね」
「…睦月さん」
「なぁに?」
「永沢をあたしに下さい」

堂々と言い放つその姿にこっちの仮面も崩れかけたけど、一呼吸置いて昼間の永沢を思い出したらすぐに落ち着けた。
極上の笑顔で聞けるあたしも、同じく笑顔で言えるこいつも、相当ツラの皮が厚いと思う。
間違なく同じ人種。

「ウソです」
「は?」
「ちょっとその顔崩したくなっただけですよ」
「ふぅん」
「あたし、人のモノには興味ないんで」

そう言うと、くるりと踵を返して自分の席に戻って行った。

自分を鏡で見てるようなあの子。
イラつくしズル賢いし、ペアになってほんと嫌だった。
でも、嫌いじゃないのは自分に似てるあの子に同情でもしてるのか。

生まれ変わったように仕事をこなし始める新入社員の背中を見て思った。

大丈夫、そのうちあんたにも現れる。
ウソもほんとも全部受け止めてくれる誰かが―――


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