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イジメテアゲル!
【学園物 官能小説】

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イジメテアゲル!-4

〜〜

 次の日、英助は普段と同じ時刻の準急に乗っていた。もし昨日と同じような混雑なら、五分待ってオフピーク通学に協力しようと思っていたのだが、どうやらサラリーマンの諸兄は朝寝坊をしなかったらしい。
 ドア近くの手すりに掴まって、最近借りた文庫本を開く。その物語の内容は一人の冴えない男の子が、ある日突然女の子にもて始めるという、ありがちなライトノベルの類。
 実際の女子の腹黒さを知っている彼からすれば主人公の境遇など、むしろ同情こそすれ、羨望などの感情は到底浮かばない。
「なに読んでいるの?」
 文庫の隙間から細い指先が忍び込む。
 いつの間に目の前にいたのか、由美がにこやかな笑顔を湛えている。
「えへへ、オハヨ、英助君」
「これはこれは白河のお姫様。ご機嫌麗しゅうございます」
 本の中の台詞を真似て、恭しく挨拶する。由美は少しむくれた表情になるが、すぐに笑顔を取り戻し、
「ふむ、くるしゅうないぞ。そのほう、よきにはからえ」
 などと言い出すので、英助は思わず噴出してしまい、釣られて由美も口に手をあててはにかみながら笑う。
「白河ってそういうの似合うな」
「だってお姫様だもん」
「自分で言うなよ」
 そういってまた笑い合う二人。いつもなら千恵が厳しく目を光らせているせいで話しかけるどころか近づくことさえ出来ないというのに、今は膝をあわせられる距離にいる。
 今日はストレートに髪をおろし、ヘアバンドでとめているが、その可愛らしさに遜色はなく、むしろ違う魅力というか、一面を見せられた気がした。
「変、かな?」
「なにが? あぁ、髪型? んー、似合ってると思うよ。うん、可愛いよ」
「そ、そう? 嬉しいな……」
 ちょっぴり頬を赤らめて俯く由美。肌が白いせいか、やけに際立って見える。ただ、それは英助も一緒。つい美奈を相手にしているような気持ちで、軽々しく可愛いなどと言ってしまい、今になって照れてしまう。
 まるで自分がさっきまで読んでいた小説の主人公になってしまったような気分に陥る英助だが、妙な誤解を覚える前に距離を置くことにする。
 しかし、
「ダメ……」
「な、なんで?」
「もし電車が揺れたりしたら、いったい誰が私を支えてくれるの?」
 そんな事はつり革にでも掴まって自己責任で解決してもらいたい。しかし、自分を頼ってくれているとなると無碍に突き放すわけにも行かず、また、ヒロイズムのような青臭いプライドが擽られ、正直悪い気がしない。
「わ、分かったよ」
「ありがと……」
 それから下車する駅に着くまでの間、二人は無言のままの、窮屈で濃密な時間を過ごしていた。


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