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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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蒼い殺意-13

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僕たちは互いに敏感に感じ合った。
それでも申し分ない仲だった。
僕たちはよく「夫婦ごっこ」をして遊んだ。
それでもついぞ喧嘩はしなかった。僕たちは一緒に騒いだりふざけたり、やさしく抱き合ったりキスしたりした。(*)
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彼女はいろいろ俺に教えてくれた。
日曜日というのに一人で映画館に入ったのは、恋人がいないのかそれとも今日のデートがだめになったのか、そのどちらかだろう。違うとしても、”淋しいか退屈”ということだ。そしてその映画を、「ファンタジア」や漫画映画にしたということは、現実の生活に疲れているということだ。これだけわかればもう十分だ。
  
彼女はムッツリと黙りこくり、笑わない。俺は、わざとゲラゲラと笑ってやった。さ程におかしくない場面でも無理に笑ったものだ。彼女は、そんな俺に少しは興味を持ったのか時々俺を盗み見している。俺は、素知らぬ顔でなおも笑った。そしてとうとう、「クスッ」ときた。こうなればこっちのものだ。もう後は、あれよあれよという間にゲラゲラ笑い始めた。

彼女は、小亀が自分の利点を駆使して大きいブルドッグを負かす場面で、涙を流して喜んだ、そして笑った。これは相当の重症だ。相当の痛手とプレッシャーがあるらしい。可哀想に、慰めてやらなければ。

俺は静かに彼女の笑い声を聞いてやった。彼女は俺に気兼ねなく笑っている。そう、力一杯笑いな、俺がそばで見ていてあげるから。俺は、彼女のそんな笑い声と共にその吐息を耳にし、ある快感を覚えた。素晴らしい、背筋がゾクゾクする。そう、これは俺に与えられた特権だ。
俺は、彼女が笑うことを止めるまでじっと笑いをこらえた。邪魔をしたくなかった。・・・・・が、とうとう俺の恐れる時が来た。幕が静かに降りて、館内が明るくなった。

さようなら、さようなら愛しい人よ。俺は、君の顔を見ることなく帰るよ。さようなら!君の名も知らず、俺の名を告げることなくこのままお別れだ。俺の、俺だけの奇妙なデートはこれで終わりだ。
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とうとう最後に、子供らしい思い付きで杜の谷間でかくれんぼをして遊び、あんまり上手に隠れたものだからとうとう見つからずじまいになってしまった。(*)
(*)ハイネ恋愛詩集 『抒情的間奏曲』より 抜粋 


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