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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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蒼い殺意-14

(八)蒼い殺意

一気に読み上げた女学生は、あまりに彼らしいその内容に安堵感を抱きつつも
“もしかして私のことも・・・”」と、淋しさを感じた。溜息をつく女学生に、彼は、
「俺は・・・」と、声をかけた。
「俺はそんな恋が好きなんだ。淡い恋心を持ったままで一生を過ごしたいとも思うんだ。おかしいかな?」
「わかるわ・・・」と、幼い頃の想い出に思いを、馳せながら、彼の肩に体を委ねた。

「大人になるのって嫌ね。恋愛も多少の打算が割り込むのよね、駆け引きとか。・・・でも、私たちは否応なしに大人になっていくのよ。う、う〜ん。ならなくちゃだめなのよ。」
彼は自分の心が和み始めていることに気づき、驚いた。暗くなった部屋で、殆ど見えない女学生の表情をはっきりと感じた。優しかった頃の、母の姿を。

「ねえ・・」と、女学生に声をかけられて、彼の肩に寄りかかっている女学生に気付いた。暖かさが心地よく伝わってきた。
「ねえ、何かレコードをかけてくれる?何でもいいの、あなたの好きなもので。」
「あゝ・・」と気だるく答えながら、立ち上がって部屋に灯りをつけた。
「いや、柔らかい灯りににして。」鋭い語気の中に甘えるような柔らかさを感じ、カッと、胸の熱さが燃えるのを禁じ得なかった。

彼が激しいビートのロック音楽をかけると、
「だめ!」と、子供をたしなめるように叱る女学生だった。FM放送に切り替えると、ストリングスの小気味よい音色が流れ始めた。女学生は満足気に頷いた。そして灯りを豆電球に切り替えた。
“女学生の傍らに戻るか、ここに座るか?”と、彼は思い悩んだ。女学生の温もりに未練を感じる。しかし・・、と躊躇う彼だった。

「水でも飲むか?」と、女学生の返事を待たずにポットの水をコップに注いだ。
「ありがとう。」と、座ったまま手を伸ばす女学生に、
「負けたよ、君には。」と、苦笑しながら手渡した。一気に飲み干したコップから隣の屋根の上に垣間見える星が、少し歪んで見える。

 「座りなさいよ。」と、怪訝そうに言う女学生に、彼は救われる思いだった。彼が腰を下ろすと同時に、コップを空にした女学生が立ち上がり、彼のコップをひったくるようにしてテーブルの上に置いた。軽くリズムを取りながら彼の横に座ると、彼の腕を取り自分の肩にまわした。驚きつつも、ともすれば滑り落ちそうになる腕に、彼は力を入れた。

「どうしたの?痛いわよ、力を抜いて!」
女学生のその一言に、彼は自分のぎこちなさに気付いた。自然に振る舞おうと意識しすぎたことが、却って彼を不自然にさせた。
「リラックス、リラックス!もうおかしなことは考えないで。」
女学生の屈託のない声に、彼は体中から力が抜け去り、スッキリとした。肩においた手を外し、彼は大きく背伸びをした。そして、目を閉じながら故郷を思い浮かべようとした。

が、下ろした彼の腕に感じる女学生のふっくらとしたものに気付いた。懐かしい感覚だった。母の胸に抱かれて、何の不安も感じることなく、唯々乳房に戯れていた幼児の頃。時と場所を選ばず、お腹が空けば母乳をねだった幼児の頃。至福の時だった。

含み笑いをする彼に、
「何ぁに、イヤーね。」と、彼の脇腹をこずく女学生。たまりかねて笑い出す彼に、
「馬鹿!クククッ・・・」と、女学生も連られて笑った。
どちらからともなく体を壁からすべらせ、淡い灯りの中でお互いの目を見つめ合ったまま、寝転がった。彼の腕を枕にして
「イーッだ!」と、鼻にシワを寄せる女学生に、
「ベーッだ!」と、彼も又舌を出す。


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