投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

きみおもふ。の最初へ きみおもふ。 6 きみおもふ。 8 きみおもふ。の最後へ

きみおもふ。-7

「逸!全くあんたは。折角友夏ちゃん待ってくれてるのに何してたのよ」
母親がおたまで肩を叩きながら逸を見る。あまりの食事の豪華さに暫し茫然として母を見つめる逸。
日頃の晩ご飯とは月とスッポンである。
「ほら、早く座りなさい」
我に返って逸は友夏の隣へ座った。他の家族はもう食べ終えたのだろう、出されている取り皿は二人分である。
「先食ってて良かったのに」
逸の言葉に友夏は微笑んで首を振った。
「いいの。一人で食べるのは淋しいから。じゃあいただきます」
食べ始める友夏を見、逸も手を合わせる。
「いただきます…」


「ああ、お腹いっぱい!叔母さん、すごく美味しかったです」
友夏はお皿を重ねながらキッチンへ声をかけた。
「あらそぉ?嬉しいわぁ」
満面の笑みでこちらへやってくる逸の母。逸はお茶で口直しをしながら、そんな母を目の端に捕える。
「そうだ、友夏ちゃん今日泊まってきなさいよ!」
「え?」
「げふっごほっ!!」
突然の提案に逸がむせ返った。何とか落ち着こうと胸を叩く逸。
「あああ、逸くん大丈夫!?」
慌てて友夏は逸の背をさする。そんな彼女の温もりを感じ、逸の胸は熱く染まった。
「なにむせてるのよ、逸。ね、友夏ちゃん、いいでしょう?着替えなら藍(らん)のを使えばいいし」
でも、と申し訳なさそうに逸母を見る友夏。ちなみに藍とは逸の姉、日下藍のことだ。
「明日の授業の教科書、準備しないと…」
「あら、そんなの逸と二人で見なさいよ」
この大雑把なところ、全く昔のままである。
「おかん、俺と友夏は席隣じゃねぇんだけど」
あら、そうなのと母親は息子の言葉に肩を落とした。
「でも」
落ち着いたのか、席を立ち上がる逸は続けた。食器を手にキッチンへ歩いていく。
「明日は県の高校教師の集まりで午前で終わるし、あるのはホームルームと数学だけだぜ」
「そうだっけ?」
きょとん、とした顔の友夏。逸母の顔に笑顔が戻る。
「じゃあ泊まっていけるのね、そうね?」
数学なら今日もあったので必要なものは鞄にあるし、授業は配られるプリントを解けばよいだけだ。
友夏は頷きながら逸母を見る。その表情はまだ困惑気味。
「でも、迷惑じゃ…」
「とーんでもないわよ!ほら、藍は男っぽいでしょ。だから初めて娘が出来た気がするのよー」
「きゅぅ」
逸母に抱き締められて友夏は可笑しな声をあげる。逸母は本当に嬉しそうだ。

逸はキッチンで食器を洗いながら物思いに耽っていた。その頬は心なしか赤い。
(馬鹿じゃん俺……何さり気なく泊まってけみたいなこと言ってんだよ)
最後の食器を濯ぎ終え、きゅっと蛇口の栓を止めた。
(でも…)
はたと動作を止める。
(今日はずっと一緒にいられんのか)
そう思うと嬉しくて、逸は人知れず微笑みを浮かべるのだった。


ふと時計を見る。十二時半を示すそれ。逸はふう、と伸びをして参考書から目を外した。少し眠気がやってきている気がする。
「コーヒーでも飲むか」
呟いて立ち上がった。天窓から三日月が顔を覗かせ、部屋を青白く照らしている。
部屋を出る。人気はない。静まり返った闇が更に空気の冷たさを際立たせていた。
階段へ向かう途中、一室の前で足を止める逸。姉の部屋だ。友夏はここにいる。
今頃もう夢の中だろう。



きみおもふ。の最初へ きみおもふ。 6 きみおもふ。 8 きみおもふ。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前