きみおもふ。-18
「あ、確か日下って朝森さんのイトコだったよね」
「…っ違う!」
声を張り上げて逸が叫んだ。答えようとしていた友夏がハッとして逸を見る。
「違う、そんな奴俺のイトコじゃない!」
瞬間、友夏は自分の体がバラバラになった気がした。知らず知らずに涙が込み上げてくる。
しぃん、と静まり返った教室。先程までの騒めきが嘘のようだ。
がらっ
「あれ、今日はえらく静かなのね。みんなテストの結果が悪かったのかな?」
教室の扉が開いて入ってきたのは一限目である英語の担当教師。
席を立っていた生徒達はパラパラと重苦しい空気の中を動いていき、席に着く。
「なぁ日下クン」
前の席の生徒が身を反らせて逸に声をかけた。
「さっきの、ありゃぁ言い過ぎやで?ほれ、ねーちゃんえらい凹んどるやん」
言われて友夏に目をやる逸。友夏はしょんぼりしたように首をうなだれていた。
「分かってるよ……」
悔しそうに、逸は呟いた。
ごめん、ゆか。
でも、もうイトコは嫌なんだ。
普通の他人になりたい。
恋愛対象として見てもらえる、そんな、
そんな関係になりたいんだよ…俺……
その日からまた友夏と逸の間には溝ができてしまった。傷つくのが恐く、友夏が逸を避けるようになったのである。
しかし月日の流れは早く、そんなことを気に止めていられる時間は徐々に失くなってきた。受験生は追い立てられるしかないのだ。
とにかく勉強しなくてはと友夏は思う。
(逸くんのことはもう忘れるんだ。そうだよ、もともと高一の時から冷たかったじゃない。元に戻っただけよね)
なんとか自分を奮い立たせ、勉強に励む。クラスにも段々受験ムードが漂い始めていた。
とうとう十一月も終盤となったある日のこと。この日は放射冷却のせいもあって一段と冷え込んでいた。
道端には霜が下り、吐く息は白く染まる。
幸い暖房はついていたので教室内は暖かだった。窓の傍に並んで取り付けられている暖房は生徒にとって命の糧と言っても過言ではない。
今日も友夏は他の友人等と一緒に暖房に群がりながら英単語帳を捲っていた。
窓の外に広がる空は白く重苦しい。雪が降りだしてもおかしくない空だ。
がらっ
扉が開き、生徒が一人入ってきた。何となく目をやるゆか。次の瞬間胸が騒つく。
逸だった。別にそれが胸騒ぎを覚えた理由ではない。原因は久々にまともに見た彼の様子がおかしいことだった。
顔に血の気がない。目の下にうっすら隈ができているようだ。それに瞳が虚ろである。
体調の悪さが誰の目からも明らかだ。急に心配になる友夏。よっぽど傍に行って話し掛けようかとまで思った。
しかし……
(ダメだ、やっぱり恐いよ…)
友夏の心は怯えていた。また冷たくあたられ、傷つけられるのが恐いのである。そのために友夏は逸の様子を遠巻きに見守っているしかなかったのだった。
ところがその三日後。そうも言っていられないことが友夏に起こった。