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はるかぜ
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あおあらし-6

「まだRain Emptyが売れてなかった頃、さやかと出会ったんだ。その頃俺は居酒屋でバイトをしてて、そこにお客として来たのが最初だった。最初はね、全然さやかの事覚えてなかったんだけど、何度か来る度に覚えた。さやかは友達といつも来ていて、いつも友達の話を聞いてるだけだった。何か変だなって思った」

春風がひとつひとつ思い出すようにポロポロと話してくれる。私はじっと春風の腕の中でその話を聞いた。

「さやかはね、メニューを指差すだけだった。友達が全部注文してた。ある時、その店の近くでさやかが一人で歩いてるのを見た。珍しいなって思って、まぁ、常連さんだったから、目で追ってたからすごく困った顔をして辺りを見回してる。何か放って置けなくなって俺から声をかけた」

春風は私を見ないで話している。私の頭の上もっと先の白い壁にさやかさんが見えるんだろうか。

「それから?」

たまらなくなって声をかける。
春風が私をみてまたおでこにキスをして、話し始めた。

「さやかの背後から声をかけると驚いて振り向いた。俺の顔を見て困惑した表情を浮かべて。あー、覚えてないんだと思ってあの店の……って説明してもさやかの顔は強張ったままだった。人違いだったかって適当に誤魔化して帰ろうとしたら、歩き出した俺の服、さやかが引っ張ってた。振り向くと肩から掛けてた白い鞄からメモ帳とペンを取り出したんだ」

「え……」

思わず春風の言葉に声が出る。春風はうん、と頷いて

「話せなかったんだ、さやかは」

と呟くように言った。

「耳は聞こえるのに?」

春風が頷く。

「事故で声帯が傷ついて。後から聞いた話だけどね」

胸がすごく苦しい。多分、すごく悲しい顔をしていたいんだと思う。春風にこの話をしてってお願いした事、少し後悔していた。

「で、その時さやかは定期入れを落としてて二人で探したけど見つからなかった」

春風が私の頭を撫でてくれる。
すごくやさしく。

「それがきっかけでさやかと仲良くなって休みの日に出かけたりした。彼女の話を聞くことはほとんどなかったけど、俺の話や歌を一生懸命聴いてくれてすごく楽しかった」

一息いれようか、と、春風が私の顔を覗いて言った。
首を小さく振り、春風の顔をみてすごく悲しくなった。
春風の顔が違う人に見えた。

「やっぱり、やめよう。そんな顔見たくないよ」

「どうして?りつが聞きたいから話すんだよ。……それにね、次の機会はもう作りたくないんだ」

春風の顔がゆがむ。
何かを思い出すように目を閉じて首を振った。

「ごめん……」

何て言ったら良いのか分からなくて思わず謝った。春風はいいんだよ、と、優しく呟いてからまた続きを話した。

「その時の俺はすごくさやかを愛してて、曲を作る時も歌う時もさやかを思っていた。そういうのって思い入れが強くなると違ってくるんだ。その頃からね人気が出て大手の事務所からデビューの話が来た。すごく喜んで俺たちはその話を受けた。ただその時もし恋人がいるなら別れて欲しいって言われたのに嘘をついた。恋人なんて居ないって。メンバーも誰もさやかの事を知らなかったから上手くいくと思ってた。デビューしてしばらくは会えなくてそれでもメールを頻繁にしていた。けれどその内メールする時間もなくなってすごく寂しい思いをさせた。だから思い切ってマンションを買ってね、さやかを呼んだんだ。そうしたら人目を気にせず会えるって、そう思ったから。さやかも凄く喜んでくれて仕事も辞めてくれた。ずっと俺だけの物にしたかった。けど、秘密っていうのはいつか分かってしまう物で、一番最初にばれたのは雨水だった。雨水は俺が失くした鍵を楽屋で見つけてくれて届けてくれて、高校からの友達だから気兼ねないって思ったんだと思う。勝手に入ってきて、そこで目にしたのは俺とさやかが裸で抱き合ってるところだった」


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