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はるかぜ
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あおあらし-5

合鍵を使ってガチャリと鍵を開けてドアノブを回した。
さっき呼び鈴を鳴らしたのに春風は出てこなかった。
ドアを開こうと力を入れるとそれは思ったより簡単に、というよりは、無理矢理開いた。
驚いて顔を上げると、中から春風が寝起きのまま出てきて、私を見て目を丸くした。

「おはよう」

たっぷり一呼吸おいてから言うと春風は小さく頷いて笑顔を向けた。ドアを大きく開けて春風が中に入れてくれる。ドアが閉まって部屋が薄暗くなる。春風の匂いが充満した部屋。

私はベッドに登ってその奥にあるカーテンを開けた。白くてあったかい光が春風の部屋に入ってきて、明るくしてくれる。
春風は冷蔵庫を開けて中から紙パックのアイスコーヒーと牛乳を出した。
それを洗って伏せてあるいつもの金魚のグラスに半分入れて残りの半分には牛乳をたっぷり入れてくれる。
私はそれを見ながらベッドの淵に腰掛けていた。
春風がグラスを持って私の横に腰掛ける。

「ありがとう」

両手で受け取ると春風は私のおでこにそっとキスをして、立ち上がり、歯磨きの動作をした。
わかった、と小さく頷くと、春風は洗面所の方へ姿を消した。

ミルクコーヒーを一口飲んで、テーブルに置く。
洗面所の方から水が流れる音と一定のリズムで水道管が水を飲み込む音と、ミントの香りがした。

しばらくしてトイレの流れる音の後に、春風が戻ってくる。
そして当然のように私の隣に腰掛けた。

「りつ……」

久しぶりに聞く春風の声。
びっくりして目を丸くする。
春風は私の頭をそっとなでてもう一度、私の名前を呼んだ。

「りつ、どうしたの?」

「聞きたいことがあって来たの。……もう、話せるの?」

春風が小さく頷く。

「名前を呼びたくなったから、呼んだら、出たんだ」

春風の手はまだ私を撫でている。
心が苦しくなった。

「聞きたいことって、なに?」

私を見る春風の目はすごく優しい。
だから、余計に辛くなった。

「……あのね」

心臓がドキドキする。

「うん」

春風はじっと私を見て、頷いた。

「春風の、前の、さやかさんの事、聞きたい」

春風の手が止まった。
私の頭から手がゆっくり落ちて、ベッドについた。
春風の顔を見つめる。
春風も私の顔をずっと見ていた。
時計の秒針が回る音が大きく聞こえる。

「ねぇ」

やっぱりいいよ、やめよう。って言いかけて春風は急に私の名前を呼んだ。

「りつ」

すごくそれは小さな声で自分の声に消されてよく聞き取れなくて、聞き返そうとしたら、また春風は私を呼んだ。

「りつ」

春風が私を抱きしめる。
その力があんまり強くて驚く。

「りつ」

春風がまた私を呼んで、それで、私は返事をした。

「はい」

「これから話をしたらりつは俺の事を嫌いになるかもしれない」

春風の胸から顔を上げる。

「俺が酷い奴だって、思い知るよ」

「それでも」

春風の顔が悲しそうになる。

「それでも、知りたい?」


私は精一杯力をこめて頷いた。
春風にちゃんと聞かないと私は何かを見つけられないまま春風と一緒に居る事になってしまうから。

しばらく春風は考えこむように目を閉じてじっとしていた。

「話が終わるまでこうしてて、いい?」

それはお願いではなく確認だった。
私が頷くより前に、春風は話を始めた。


「あのね」

春風が口を開く。私を抱きしめたまま。


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