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はるかぜ
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あおあらし-7

うん、と、小さく頷きながら春風の話を聞いていた。
幸せな日々、さやかさんはどんな人だったんだろう。

「雨水の顔、今でも忘れない。すごく驚いて怒って、二つが入り混じった顔をしてた。それで仕方なく雨水に紹介したんだ」

疲れた?と、春風は私に尋ねる。
時計を見るともう一時間経ってた。

「大丈夫。話して?」

促す私に春風はまた口を開いた。

「雨水はりつにとっては印象が悪いかも知れないけど、本当はすごく良い奴……だった。だから事務所にはもちろん他のメンバーにも黙っててくれた。それから、Rain Emptyは鰻上りにヒットして、りつも知っている通りになった。雨水と俺とさやかは三人でよくマンションで食事をするくらい仲が良かった。さやかの事、雨水にばれて……本当の事を言うと錘が取れたようだった。色々相談できるからね」

春風が私の頭を撫でる。
そこに私がいるのを確かめるように。

「……だから、気が抜けて、魔が差した。彼女を裏切ったんだ。他の女と会って、何度も週刊誌に取り上げられた。それでも家に帰ってあれは嘘だよ、と、さやかに言った。その度に喋れないさやかは笑って信じてると書いてくれた。本当はそんな事なかったのに」

春風がそんな風だったなんて信じられなかった。
あの時雨水は何て言ってた?

同じように、なる?

私の体が春風から勝手に離れようとした。
春風が力を緩めて頭から手を離す。

「それからしばらくして彼女の様子が変だった。じっと俺を見てため息をついたり何もせずベッドに横になったていたり。ただ、その頃は本当に忙しくて家に帰ってなかったから、今思えばってくらいで、何も気づいてなかった。当時は」

気がつけば私の手は春風の腕をしっかり掴んでいた。
体と心が喧嘩をしているように。

「りつ、嫌いになっても良いよ。だけど、誰にも言わないでね。まだRain Emptyは夢を見させてあげてる存在だから」

返事ができなかった。
言われてる意味が分からなかった。
春風はすごく穏やかな顔をして口を開いた。
そうしないと話せないんだと、言わんばかりに。

「ある日家に帰ったらそこに雨水がいた。さやかの肩を抱いて背中をさすっていた。雨水はその時何もしていなかったのに盗られたって思った。雨水はそんな奴じゃなかったのに、頭に血が昇って、雨水をぶっ飛ばした。そのまま二人をおいて部屋を飛び出して、他の女の所に行った。俺の方が彼女をたくさん裏切っていたのに」

目の前を何かが通った。
見上げると、春風の涙が落ちていた。

「泣いてる……の?」

結末はここじゃないの?
どうして泣いてるの?

聞きたいのに声に出せなかった。
春風は涙を拭うこともせずに続ける。

「りつ、終わるまでは側にいてね」

私はもう何も言えなかった。
頷く事も出来なくてただ、春風を見ていた。

「その後雨水ともさやかとも話さないで一週間が過ぎた。何度も雨水は俺に話しかけてたのに、無視して。久しぶりに家に帰るとさやかは居なくなってた。さようなら、と、いつもの文字で書かれた紙が一枚テーブルにあった」

そんなにさやかさんが好きだったの?
捨てられて泣いてしまうほどに。
そこで終わりだと思って、もういいよって声をかけよう思ったのに、春風はまた口を開く。


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