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はるかぜ
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あおあらし-4

落ち着いてようやく涙が止まるとゆっくり春風は私から離れた。
長い指が私の頬についた涙をそっと拭う。
真正面にある春風の顔。
綺麗なその顔が悲しみで覆われていた。


「来てくれるなんて思わなかった」


呟くと春風は首を振る。
手を伸ばし机の上にあったボールペンを取ると自分の手のひらに『当たり前』と書いた。

「ありがとう」

春風が小さく頷き、それから『ごめん』と書いた。

「うん……」

小さく笑みを浮かべてそれだけ返事をする事しか出来なくて、誤魔化すように机の引き出しを開けて便箋を出した。

「これに書いて。痛いでしょ?」

春風に手渡すと、ついでにティッシュで鼻をかんだ。


それから色々な事を話した。
会っていなかった一週間の事。
雨水と会った事。
春風は彼女が死んだのは自分のせいだと書いた。
ペンを持つ手が震えていて、私はまた、それ以上の事を聞きそびれてしまった。
すごく疲れていたから聞こうと思いながら寝てしまっていた。


目が覚めるとそこに春風は居なくて、便箋に『今日は帰る』とだけ書いてあった。
母が引き止めて仏間に昔みたいに居るんじゃないかって慌てて階段を下りて襖を開けたけれどそこには誰も居なくて祖母が焚いたお線香だけが短くなっても煙をだしていた。

すっかり寝坊していて仏間から茶の間に行くと母はお裁縫をしていて、顔を上げる。

「おはよう。すごい顔よ、洗ってらっしゃい。ご飯つけておくから」

「うん」

小さく返事をして、廊下へ出る。洗面所へ行き、水道をひねると水が勢いよく流れ出た。洗面台を水が大きな円を描きながら排水口へ落ちていく。何だかもやもやしたものが全部流れて行っちゃうみたいで、しばらく見てから深呼吸をした。昨日、春風が来てくれたのは私の為なのだから、もう悩むのはやめにしよううかな。ご飯を食べて薬を飲んだら、春風に会いに、行こう。

朝食は玉子焼きと納豆と青菜のおひたしだった。母が洗濯物を干しているのを見ながらゆっくりそれを食べて最後のお茶まで残さず食べた。全部が私の体の中で春風に話を聞くための力になるように。


「母さん、出かけてくるね」

白いお気に入りのワンピースに着替えてから茶の間の母に声をかける。母は雑誌を読む手を止め顔をこちらに向けていってらっしゃいと笑顔で送り出してくれる。

「そんなに遅くはならないから」

玄関まで行き靴を履いてもう一度母に声をかけた。


外はものすごく良い天気で、二軒隣りの犬がバイクの音に反応して吠えていた。うーん、と一度伸びをすると太陽が目に入ってチカチカする。


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