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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-27

「前から聞こうと思ってたんだけど、どうして俺に知っててもらいたいんだ? 」

加藤は左半身を下に方向をかえ、エスを見た。エスと顔が向き合う。じっと見つめる加藤に、エスは笑みを浮かべたまま言う。

「加藤さんをずっと待ってたから」

「……ずっと?」

「うん。ずっと」

「加藤さんはあたしを知らなかったけど、あたしはずっと知ってたから。こうなるって知ってた。だから、あたしが加藤さんを知ってた分知ってもらいたいだけ。」

エスの言う知ってたは『見てた』のだろう。
言いたい事は何となく分かる、が加藤は腑に落ちなかった。


翌朝、目を覚ますとエスはすでにベッドから抜け出ており時計を見ると八時を指していた。
大口を開けて欠伸をしながら起き上がり、寝癖のついた頭を片手で掻く。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。どうやら晴れているらしい。
寝起きの一服をしようかとベッド脇のソファに置いてある上着に手を伸ばした時、ノックと共に寝室のドアが開いた。

「おはよう」

エスがいつものように笑みを浮かべて入ってくる。まるで見計らったようにと言いたい所だが、エスの場合は本当に見計らっているのだろう。

「ん」

加藤は片手をあげ返す。
エスは入り口のドアを閉めると加藤の側まで歩いてきた。

「律子が朝早くきて、これ」

ポケットから出したのは加藤が吸っている銘柄の煙草で、そういえば切れていたのだと受け取りながら思った。

「昨日頼んでおいたの。パンも買ってきてくれたから、朝ごはんにしない? 」

ビニールの封を剥きながら加藤は頷く。

「用意がいいな」

皮肉でもなく、ただ、関心したように言ったのだがエスは困ったように笑った。


数分後リビングにはコーヒーの匂いが充満していた。
エスと加藤は向き合いパンをもそもそと食べている。

「なぁ」

二枚目のパンを一口齧りながら加藤がエスに声をかけた。
エスは砂糖がたっぷり入っていそうな菓子パンをちぎって口に入れた所で、口を動かしながら加藤の顔を見る。

「テレビつけていいか? 」

エスは大きく頷く。加藤は立ち上がりリモコンを手に戻ってきた。そのまま椅子に座り、テレビをつける。
パシュンと音がして画面が明るくなり、一気に音が溢れる。
ちょうど朝のニュース番組が終わりを告げ、各局ワイドショーに切り替わったところだった。
日本は暇なのだろう。
ワイドショーはこぞってエスを取り上げていた。


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