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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-26

「遠藤先生はまだ来てないの? 」

律子がそっとエスから離れて尋ねる。
迷子の小さな子に話しかけるように顔を覗き込みながら。
エスは首を左右に小さく振った。

「そう。しばらくは騒がしいかもしれないけれどすぐにみんな飽きるよ」

律子がエスの頭を撫でた。
エスは小さく頷いた。

その後二時間ほど三人で談笑し、律子は家に帰っていった。
エスの話によると、彼女は良い所のお嬢様なのだと言う。
確かに、と頷くと、エスは嬉しそうに笑った。


「ねぇ、加藤さん」
ベッドサイドの明かりだけがぼんやりとオレンジ色の光を照らす中、エスは布団の中で背中合わせに寝る加藤に声をかけた。

「ん……?」

目を閉じていただけの加藤が顔をエスの方に向けた。加藤の目に映るのは小さな後頭部。

二人はキングベッドに二人で寝ていた。誰かと寝てみたいというエスの願望を加藤が断りきれなかったからだ。

「遠藤先生とはねー……」
エスは体ごと加藤の方へ向ける。高級ベッドはエスが動いただけではベッド全体が揺れることはなく、加藤はじっとしていた。

「両親が死んだ時に会ったの。以前から知ってはいたんだけど。多額の遺産があってね、それを取られそうになった時に遠藤先生が全部やってくれたの。任せて大丈夫だよって。だから、このマンションも本当はあたしの」

一気にエスがしゃべり、笑う。
加藤はなぜそんな話をするのかと眉をしかめた。

「加藤さんには聞いておいて欲しかったから。……ね、怖い夢みたら、抱きついてもいい?」

端と端に別れて寝ようと約束したはずなのに、エスはすぐ側まで寄ってきていた。

「……しょうがねぇな」

苦笑いを浮かべて自分も真ん中に寄る。

「俺に聞かせたかったって……。今更記事にするでもなし、俺は神父でもないんだけどな」

ふぁっと欠伸を噛み締めながら呟くと、エスはすこしだけ笑い

「でも加藤さんは知っておいた方がいいんだよ」

と、呟いた。


「なあ…」

加藤はエスの言葉に引っかかって声をかけた。加藤の側で眠たそうに瞬きを繰り返しながらエスは顔をあげる。


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