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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-1

エスって知ってる?
神出鬼没の子でさぁ〜、占いが当たるんだよ。
すっげぇ当たるの。
マジ、すごいんだから。
だって政治家とかも会ってるらしいよ。
え?
だから、エスに!!!
メアド?
携帯?
知らないんだよ、それが。
誰も。
っぽいっしょ。
でしょ、でしょ。
マジ、すごいんだって。

どこにでもある都市伝説。
女子高生の口から口へ伝わる噂。
信じてるフリをして、信じてない人が大半の、そんな話。

そんな話を追いかけていた一人の男の話。



 「エスの噂〜?知ってるよ」

渋谷のマックの2階、ルーズソックスでミニスカート。ジャラジャラと鞄にキャラクターの人形やキーホルダーを付けた女子高生が携帯をいじりながら言った。

「本当に?じゃあその『エス』って人の居場所とか、知らない?」

メモとボールペンを持ったまま加藤は身を乗り出した。
今度こそビンゴかも、しれない。
そんな加藤の期待を裏切ったのは、少女の言葉だった。

「あー、わかんない。エスはさ、神出鬼没だから」

ちろっと加藤を見たものの、また携帯に目を向ける。
加藤はがっくりとまた肩を落とし、お世辞にも綺麗とは言い難い髪をがりがりと掻いた。

数十分後、女子高生と別れ、渋谷のマックの前にぼーっと佇んでいた。
あんな風に少女たちに聞き込みを始めて早一ヶ月。
『エス』という人物の影すら見えてこない。

「参ったな、まぁたどやされる」

脂ぎった中年男の上司の顔が浮かぶ。
おっさん、と呼ばれている編集長の異臭を放つ口から湧き出る言葉で罵倒されるのは、もうごめんだ。
加藤はその場でため息をついて、項垂れた。
日も暮れかけているというのに渋谷は人で溢れている。

最初は乗り気じゃなかったのだ。
けれど、三流…とまではいなかくても、二流の出版社の部数の多くない週刊誌の新米記者なのだから記事を拾ってくるのも一苦労だった。
下手に芸能人のホラ話を作って訴えられようもんなら、自分を始め社員全員が路頭に迷うかもしれない。
先輩記者の山田が持ってきたネタ、それが、これだった。

「そんな情報、嘘に決まってますよ」

メモに書かれたネタをさらっと読んで、山田に怪訝な顔を見せる。

「お前な、まだ新人だろーが。ネタ選んでられないだろ。それから、嘘か本当かは、お前が歩いて見極めるの。仕事だろ、それが。俺達は電話受けて記者会見に行く一流とちげーんだからよ」
「…でも、これは……」
「でももかかしもねぇの。仕事選べるようになってから、偉そうな事言うんだな。…そのネタなら失敗してもおっさん、なんも、言わねーよ」

ぽんと、肩を叩く山田に半ば強制的に決められて次の日から加藤は渋谷をうろつくことになった。


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