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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-28

「こんな大事になるんだな」

コーヒーを手に取りながら加藤がぼそっと洩らす。エスは何も言わずミルクティーを飲んでいた。

アナウンサーがあのビルの前で実況をしている局から他局へとチャンネルを回すと、イニシャルで表された芸能人をクリップで見せている局があった。

『ここに書いてある皆さんもですねー、エスと呼ばれる預言者に見てもらっているらしいんです。政界の著名な方も見て頂いてるらしく……』

スタジオのキャスターがそう言うと横からコメンテーターが偽者じゃないかと野次を飛ばし、軽い論争を引き起こした。

二人はそれをじっと眺め、加藤は時々エスの顔をちらっと見たりした。

「これじゃあ遠藤先生の名前が出るのも時間の問題だね。……それに」

見入っていたエスが独り言のように言葉を洩らす。が、すぐに言いかけてやめてしまった。
加藤が続きを催促するようにエスを見たが、エスを小さく頭を振るだけだった。


二人の間に沈黙が訪れる。
テレビの音がむなしく部屋に響いた。
食欲が無くなったのはエスも加藤も同じで、皿には固くなったパンが残っていた。

「テレビ消すか? 」

先に切り出したのは加藤だった。だがエスはその申し出に首を振る。

テレビからはエスを見たという一般人がモザイク入りで話しをしていた。エスは女の子だとか、背が低いとか。

「よかった、写真とかプリクラとか撮っておかなくて。……知ってたんだけど」

俯いていたエスが顔をあげてぽつりと呟く。
加藤はその顔を見て胸が痛くなった。

「……なぁ、こうなるって分かっててどうして俺を招いたんだ? 」

エスをじっと見つめる。加藤には不可解だった。こうなる事が分かっていたはずなのに、エスが自分を呼んだことを。

「……昨日も言ったじゃない。加藤さんをずっと待ってたから」

「けど……」

「加藤さんに会いたかったの。……それだけじゃいけない? 未来を知っているからって、危険だからって、会いたい人に会わないなんて……それって、あたし、人間じゃないみたい」

エスは眉を寄せながらそう言った。加藤は胸が締め付けられる思いだった。

エスがそんなに自分に会いたかった理由が、どうしても知りたくなった。

「なんでだ? 見てたからだけじゃないだろう」

エスはその言葉に首を振る。

「今は言えない。まだ、言えないの」

加藤はテーブルの下の両手を握り締める。爪が手のひらに食い込んで痛いくらいに。
苛立っていた。

多くを語らないエスに。
深追いした自分に。

何より、この先何があるのか自分は分かっていないのに、目の前の少女は分かっていて、神のような立場に居る事が。


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