双子月2〜葉月〜-3
「そんな声だしたら葉月が目を覚ますぞ?」
意地悪そうに笑んだ父は「父」ではなかった。
一人の男と知らない女が絡みあっている。
いつも、と女が言っていた。男はいつも、仕事の帰りに女の部屋へ行き、こんなことをしていたのか。
娘のことをほおっておいて。
最近、毎日遅いのは、毎日女のところに行っていたからなのか。
葉月の中で何かが音を立てて崩れた。
隠れていたキッチンでしばらく動けなくなってしまった葉月は、すぐそばで繰り広げられる男と女の行為を、目の当たりにしてしまった。
・・・・・
次の日の朝、葉月は父が起きる前に家を出た。
何も考えられないまま、葉月が向かったのは母のところだった。
離れて暮らすようになってからは一度も会っていなかったが、前に父の住所録の中に書いてあるのをこっそり書き写していたのだ。
電車で何駅も離れた街。
日曜日の人もまだまばらな朝の電車に揺られながら、葉月は母の住所を書いた紙を手に握りしめ、一点を見つめていた。
母の住む場所は閑静な住宅街の中だった。
日曜日の朝ということもあって、その街は穏やかな時間が流れている。
「お母さん・・・。」
一件の家の前で足を止めた。ここがどうやらそうらしい。
しかし、ずっと会っていない母になんと言って会えばいいのか、葉月は家の前でためらってしまった。
「お母さん!早く〜。」
すると、家の玄関が開いた。
懐かしい声。
自分と瓜二つの声。
美月だ。
葉月はとっさに隠れてしまった。
「美月、そんなに急いでも動物園はまだ開いてないわよ。」
母だ。
前と変わらない優しい声で笑っている。
「いいの〜!お父さんも!早く行こう。」
お父さん
美月ははっきりとそう呼んだ。
後から出てきた母の隣りには葉月の知らない男がいる。
母は再婚していた。
幼い葉月にはまだそんな言葉は知らない。しかし、見れば分かるのだ、母と美月の幸せそうな笑顔を。
美月には新しいお父さんが出来てあんなに幸せそう。
私は?
双子なのにどうしてこんなに私達は違うの?
それから葉月は心を閉ざした。
自分には父も母もいない、ひとりぼっちなんだ、と。
中学の頃の葉月は、もうだいぶ荒れた生活をしていた。
化粧をし、夜の街に出ては遅くまで遊び、家にもほとんど帰らなかった。