10年越しの関係-1
私達4人の間に続く、張り詰めた沈黙…松田君と光輝君がお互いをジッと見据える中で、私はただ不安な気持ちでオロオロとしている事しか出来なかった。
(もしかしてこの二人って…仲…悪いの?)
あまりにも険悪すぎるムード…これがただの喧嘩だとは、どうしても思えない。もっと深い…因縁の様なものを感じるの。
しばらく無言の睨み合いが続いた後、急に松田君が視線を私に移して鼻でフッと笑った。
「宮木さんが困ってるね。」
そう言う松田君の表情は、すっかりいつもの穏やかな表情に戻っている。
「光輝のせいで委員会の仕事も中断されちゃった事だし、今日はもう帰ろうか?送るよ?」
「え、えっと…」
(ど、どうしよう?)
私はチラッと、隣に立つ光輝君を見た。
光輝君は私の腕を掴んだまま…依然として険しい表情をしている。
「わ、私は…」
ここで松田君と一緒に帰るべきか、断るべきか…私には直ぐには判断出来ない。
だってね、光輝君と松田君のどちらかをここで選べって言われている様な気がするの。
普段の私なら、間違いなく光輝君を選んでるよね?でも、今この状況で光輝君を選べない。
なんとなく…そうしたら松田君を深く傷つけてしまう様な気がしたから……
「ねぇ、松田っ!」
私がなかなか答えを出せないでいると、絢音が何事も無かったかの様に口を挟んだ。やけに明るく、ニコニコと…
「私の存在、完全に忘れてるでしょ?」
「は?」
「忘れられてる方の身にもなってみなさいよ!虚しいのなんのって…」
(あ…絢音?急に何を言い出すの?)
「あ〜、なんか疲れちゃった!ねぇ、聖…ちょっと付き合ってくれない?」
絢音は肩を押さえて、首をコキコキさせている。
「へ?な、何に?」
「ん〜、そうだなぁ…今日はアイス!駅前に新しく出来たお店、気になってたんだよねぇ…」
(えっ!?つ、付き合うって…甘いものを食べに…なの?)
「瀬沼、私が聖を連れてっても良い?」
絢音が私の返事を聞くよりも先に、光輝君に向かって同意を求めている。
(わ、私の意見は?)
「俺は構わないよ、水沢。博也もそれで良いよな?」
(えぇっ!?)
光輝君が松田君に、投げる様な視線を送る。光輝君まで…私のことはまるで無視。
「はぁ…仕方ないね。今日のところは退いてあげるよ。」
溜め息混じりの松田君の言葉を聞いてから、光輝君はそっと私の腕を離した。
「面白くないっ!」
光輝君と松田君と別れた私は、絢音に引っ張られながらずっとふてくされている。
だって気付いてみれば、絢音よりも私の方が蚊帳の外だったんだもんっ!私、絢音と一緒に行くとも何とも言ってないのに…
「皆で勝手に決めちゃってさぁ…ホント、面白くないっ!」
「まぁまぁ、そんなに怒らないのっ!もとはといえば、聖がちゃんと松田に返事をしなかったのが悪いんだし?」
「う゛…」
「そんなにぶぅぶぅ言うんだったら、ちゃんと松田に返事しとけば良かったじゃない!」
(ご、ごもっともです…)
「で、久しぶりに光輝君と会えてどうだったの?何か進展あった?」
急に絢音は、思い出したかの様にニヤニヤと意味深な笑みを浮かべた。
「あっ、え、えっとぉ…」
「あやし〜い!」
歯切れの悪い返事をする私に何かを確信したのか、絢音が私に向かってズイッと顔を近付ける。