10年越しの初恋-6
(あれ?そういえば…痛…くない……)
そう思ったのも束の間…耳のすぐ近くで声がした。
「痛ってぇ……聖、大丈夫か?」
「う、うん。」
光輝君が私の後頭部と腰の辺りを抱えて、覆い被さる様にして一緒に倒れている。
(あっ、光輝君が守ってくれたんだ…)
「ありがとう。」
私の口から自然と出た言葉に、光輝君が少しだけ体を起こす。その瞬間、私と光輝君の視線がぶつかった。
「聖…」
息がかかりそうな程近くにある光輝君の唇が、私の名前を静かに呼ぶ。
光輝君の、いつもとは別人の様な真剣な瞳が、私の視線を捕えて放さない。
至近距離で見つめ合ったまま、金縛りの様に体が動かなくなってしまった。
(どう…しよう……)
「眼鏡…ズレてる……」
「ひゃっ!」
さっきまで腰の下に有った手が、私の頬をかすめて、あっさりと眼鏡を奪い去る。
重なったままの体と、触れられた場所がなんだか熱い。
周りの音は全然耳に入らなくて、聞こえるのは自分の心臓の音だけ…
ドキドキし過ぎて苦しくて…私は無意識の内に、光輝君の瞳から逃げようと目をギュッと瞑っていた。
「んっ…」
目を閉じたと同時に、唇に何かが柔らかく触れる。それは羽毛の様にフワッと私の唇に当たって、そのまま離れて行った。
(え?な、何?)
初めて感じるその感覚に、私はパッと目を開ける。でも、また直ぐに唇を塞がれてしまう。
今度は長く…そして深く……
光輝君の唇がゆらりと近付いて、私のそれと重ねられたの。
「ぅん…んんっ……」
重なり合う唇はそのままに頬をゆっくりと手が滑り、全身にゾクゾクッとした感覚が走る。
(なんだろう?これ…変な感じ……)
唇から伝わる温もりに、徐々に意識が朦朧としてくる。
(キス…されてるんだよね?)
ボーっとする頭の中、それだけは確実に解った。
突然奪われたキスに、嫌悪感なんて全く感じない。触れ合う唇がただただ心地好くて、素直に身を委ねてしまう。
『時間が止まれば良いのに』と思った瞬間、無情にもチャイムに邪魔をされてしまった。
キーンコーンカーンコーン…
やけに大きく聞こえるチャイムの音に、私も光輝君もビクッとしてしまう。そして、それと同時に唇が離されてしまった。
私達の視線が再びぶつかる。
「あ…ゴメン……」
光輝君は視線を私から反らしながら、物凄く気まずそうに言う。
(謝らなくても…良いのにな……)
「聖…怪我無かったか?」
「う、うん。大丈夫だよ。」
「そっか、良かった。」
そう言うと光輝君は、私の手を掴んで引き上げてくれた。
私達の間に、微妙な空気が流れている。
(き、気まずいよぉ…)
光輝君のが伝染したのか、私まで目が合わせられない。
すると、この空気を打ち破る様なパタパタという足音が、廊下の方から聞こえてきた。