ドアの向こう〜宣戦布告〜-2
「玲!」
玲の後を追いかけてくる優。
怒っていながらも、最後には自分を選んでくれることがやはり嬉しい。
現金なものである。
ちょっと怒りが溶けかけたが…
「ど、どうしたの…?」
ようやく追い付いた優であったが、玲のジトーっとした目にたじろいでしまう。
その視線の先は優の第二ボタンのみならず全てのボタンを失っている学ランへと注がれていた。
おそらく先ほどの女生徒達に根こそぎ取られたのだろう。
そして再び玲は何も言わず歩き出す。
後ろ姿からでもさっき以上に怒っているのは明らかだ。
それから、現在へ戻る。
(はあ…どうしたらいいんだ…)
何を言ってもノーリアクションのため、打つ手がない。
ただ、玲の歩く方向が自分の家でなく優の家であるのが唯一の救いか。
これで方角が玲の家に向かっていたら、土下座くらいはしたかもしれない。
家で改めて弁明しよう…密かに決意する優であった。
「あ、今鍵開けるね」
やがて優の家に到着し、ドアの前で立ち止まっている玲の前に回り込み鍵を開ける。
「…お邪魔します」
静かに呟いて、玲が階段を上がる。
おそらく、優の部屋に向かってるんだろう。
優も慌てて後を追う。
「あの…玲?」
部屋に入ると玲はベッドに座ってこちらを無表情で見つめていた。
とんでもない美人なだけに無表情で見つめられると異様に怖い。
「こっち…」
玲がポンポンと自分の隣を叩く。
優はそれにおとなしく従った。
(自分の部屋なのに、何でこんなに肩身が狭いんだ…)
そんなことを思いながら、優は恐る恐る玲の隣に座った。
優が隣に来た瞬間、玲はじーっと優を見つめてくる。
いつもであれば、ベッドの上でなおかつ至近距離で見つめられれば、互いに想いを高めあいそのまま愛し合うのだが、今はその視線が恐くて直視できなかった。
「優…あんなに女の子に囲まれて…モテるんだね」
顔は無表情のまま、玲がしゃべる。
最近になって分かったのだが、玲は取り返しがつかないほど怒った時は己の感情が一切表情に出なくなるのだ。
今の状態もそれだった。
「そ、そんなことないよ。あれは卒業するからたまたまで…」
「嬉しそうだった」
「そりゃ嬉しくないことはないけど…」
「やっぱり…私みたいな年上より年下の若い子の方がいいのね」
随分と年寄り臭い言い方だが、玲はまだ今年で17歳と十分若いし、優や彼女らとも1、2歳しか違わない。
「そんなことないよ!僕は玲じゃなきゃ嫌だ!」
「…本当に?」
「本当だよ。僕が好きな女の子は玲だけだよ」
「じゃあ、証明して…」
やはりきたか、と優は思う。
付き合い出してから間もなく優は、玲が実は恐ろしいほど嫉妬深いことを知った。