隣人は雨の香り-2
バッグの中を手で探り引き出しの鍵を取り出しバッグの中から通帳とキャッシュカード、保険証を出して中に入れた。
毎月の生活費は銀行に両親から振り込まれる。
引き出しを閉め鍵をかけた。
鍵を引き抜きマンションの鍵とは別のキーホルダーに付けてそれを食器棚に置いた。
「後でちゃんと隠し場所を決めないと」
さて、とダンボールに向き直る。全部で5箱。
随分と荷物も捨ててきた。
食器は必要最低限しか持ってきていないし、家具は引っ越し屋さんが設置していってくれたし。
一つ目のダンボールのガムテープに手を掛ける。
赤い油性ペンで『食器、台所』と書いてある。
中からは食器と母が使いこんだ調理器具が数点出てきた。
どうしてもと頼み込んで貰ったもので、片手鍋と小さめの両手鍋。保存容器に木べら。
小さめなフライパンにその蓋。
ひとつひとつ出しながら感傷に浸らないようにさっさとしまう。
2つ目のダンボールは『洋服』と書いてあり、床の上を滑らせて廊下を進み、ベッドルームへと進む。
この部屋には父が引っ越す前に買ってくれたダブルベッドがマットレスのまま置いてあり、備え付けの壁にウォークインクローゼットがある。
壁一面に広がるクローゼットのドアは真ん中に取っ手があり、両手で広げると、折り紙で一定の幅で山折りと谷折りを繰り返した時みたいに畳まれて開く。
「うわぁ」
音もなくスーッと開いたクローゼットに無闇に感動し思わず声をあげる。
中は棚やハンガー掛けが無ければもう1人分部屋が出来そうな程広い。
私が持ってきた服なんてここに入れたら寂しくなるくらいに少ない。
「これは……」
押してきたダンボールのガムテープに手を掛ける。
「宣戦布告ね。私に服を買って埋めろって」
3つ目のダンボールから服を出して季節ごとに収納場所を分けてもまだスカスカだった。
「ついでにシーツと枕と布団も持って来よう」
さっきまで泣いていたのが嘘のように私は楽しくなっていた。
枕とシーツはダンボールから出して、布団は別に持ってきて貰っていたので全部を抱えてベッドルームまで歩く。
途中で何度か壁にぶつかりながらもベッドルームに辿り着き、真新しいシーツをかけてお揃いの枕カバーを掛けた枕を乗せた。