10年越しの自覚-1
光輝君がちゃんと挨拶をしてくれる様になって数日…私は今日もまた、放課後Sクラスにやって来ている。
もう殆んど委員会の仕事は終わってるんだけど、松田君が必ず迎えに来てくれるから…
だってほら、わざわざ迎えに来られちゃうと断れないじゃない?
でもね、残念な事に…私は光輝君に会うのが、物凄く気まず〜い感じなの。あの日以来、妙に意識しちゃってて…
だってまだ、光輝君の体温を覚えてる…抱き締められた時の感覚が、まだ体に残ってるの……
正確には“抱き締められた”じゃなくて“あやされた”なんだけど、そんな事は関係無い。と言うか、大差無い!
光輝君の腕に包まれたあの瞬間を思い出すだけで、私の頬が熱くなる。
ねぇ、どうしようも無いこの感じ…なんでだと思う?
「それは恋!」
絢音は最近、口を開けばこればっかり…いい加減にして欲しいよ……
「違うってばっ!」
「違くないっ!聖ってば、恋愛に関して鈍感過ぎるよっ!もうちょっと自覚持ったら?あんなに告白されまくってたのに、断り続けたのは何の為?」
「そ、それは…」
「忘れられなかったんじゃないの?だから誰とも付き合う気になれなかったんでしょ?」
「う゛…」
「それを世間で何て言うか知ってる?」
私はちょっとだけ考えてみたけど、答えが見付からなくて首を捻った。
「えっとぉ…なんて?」
「恋よっ!」
絢音が、人差し指を立ててズバリと言う。結局は、どうしてもそこに結び付けたいらしい。
「世間ではそれを“恋”と言うのよ!恋よ、コ・イ!解る?」
「だから…違うってばぁ……」
「いい加減認めてよ。お願いだから、私の為に認めてっ!」
絢音が私の手を両手で握って、一際大きく声を張る。
(そ、そんな…無茶苦茶な……)
私は何故か、全身から冷や汗が出るのを感じた。
恒例となった放課後のSクラスは、もうすっかり通い慣れた。
まぁ、殆んど毎日の様に通ってれば、嫌でも慣れるんだけどね…
「宮木さん、こんにちは。」
教室に入って目が合ったのと同時に、光輝君が近付いて来て挨拶をしてくれた。これはすっかり、最近の日課になっている。
でも、皆の前では絶対に『聖』とは呼んでくれないの。今更苗字で呼ばれると、なんか…変な感じ……
「こ、こんにちは…」
挨拶を返しながらも、私はつい、プイッとそっぽを向いてしまった。
だって、光輝君の顔を見た瞬間に、絢音の『それは恋!』という言葉が脳裏に浮かんだの。私ってば、すっかり絢音に洗脳されちゃってるみたい…
「宮木さんって、もしかして…光輝の事、嫌いなの?」
後ろに居た松田君が、私の頭に手を乗せて言う。
(お、重い…)
その手の上に顎まで乗せているらしく、私の頭にはかなりの重みが伝わって来ている。
「それ以前に、光輝っていつの間に宮木さんと知り合いになったの?ちょっと前までは、全然興味無さそうだったのに…」
(いつの間にって…ねぇ?)
光輝君がどう答えるのか…その反応を確認したくても、頭を固定されてるから光輝君の方を向く事が出来ない。