ドアの向こう〜玲〜-2
「それって本当の本当なの!?」
「う、うん本当…」
あれから、一時間が経過した。
玲は今はキラキラとした笑顔だけど、ついさっきまでは私の軽いイタズラのせいで、大変な事態だった。
無表情で泣き始めた直後、すぐに大声を上げて泣き出すんだもん。
店内中の視線が注がれるなか、私は一時間かけて優の好きな人は玲なんだと言いなだめた。
そして今になってようやく私の発言を聞いてくれたんだけど…ああ、疲れた…
「優くんも…私のことを…」
当然のことだけど、玲はすごく嬉しそうだ。
「ま、そういう訳で、これからは玲からガンガンアタックした方がいいよ」
「え…?どうして?」
「だって優自身は自分が玲に好かれてる自覚ないし。というよりむしろその恋は叶わないって思ってるんじゃないかな?」
なまじ玲がとんでもない美人で、競争率も高いだけにそう思っても仕方ない。
「玲もそうだけど、優も好きな人にガンガン迫るタイプじゃないからね
そしてそのまま玲のこと諦めて、他の女のとこに行くかもよ。優もけっこうモテるから引く手あまただし」
ま、純粋一途な優が諦めることはないだろうけど、玲を焦らせるための方便として使わなきゃね。
「そ、そんなのやだ!優くんが…私以外の人と、なんて…」
目論見通り、玲は食いついてきた。
私の大好きな玲と優にはくっついて幸せになって欲しいから、例え強引にでも頑張ってほしいのよねえ。
「嫌なら玲もガンバロ?相手の気持ちは分かったんだから、後は押しまくるだけだよ!」
「う、うん…でもどうすれば?」
「ふむ…そうね…じゃあこうしましょう…」
そして、私は玲にあることを告げた。
「え?霧崎さんが?」
「うん。そうなの」
土曜日の朝。僕が部屋から出てくるとすぐに綾姉ちゃんに捕まった。
何事かと思えば、実は今日うちに霧崎玲さんが泊まりにくるらしい。
何でも霧崎さんの両親が共に出張に行ってしまって、一人じゃ心細いだろうからってうちに泊まるよう姉ちゃんが誘ったらしい。
「ふーん…いいんじゃないの?」
霧崎さんは僕の想い人でもあるため何となくドキドキしてしまうが、実際泊まりにきても話すことはそうないだろう。
ほとんど姉ちゃんの部屋で過ごすだろうし。
「でもね、実は私今日家にいないんだ」
…なんて思ってたらとんでも発言しやがった。
「はあ!?何それ!」
「しょうがないじゃない。急な用事が入っちゃったんだから」
「しょうがなくないよ!姉ちゃんいないのにどうやって霧崎さんを…!」
「あ、ちなみにお父さんもいないよ。仕事の関係で今日は帰ってこないって」
「尚悪いわ!」
「大丈夫だよ。玲に確認したら優くんだったら二人でも大丈夫…って言ってたし」
「う…」
霧崎さんがそんなこと言ってたのか…。
ちょっと…いやかなり嬉しい。
でも…
「とにかくこれはもう決定事項だから。しっかり玲の面倒見てあげてね。じゃっ」
「あ!ちょっと!」
言うだけ言って、姉ちゃんはそそくさと家を出た。
というか、こんなに早く家を出て姉ちゃんどこ行くんだ?
まあそれはともかく…はあ…霧崎さんと二人っきりかあ…
嬉しいけど、何とかして理性をフル動員させなきゃな。
俺と二人きりなら大丈夫って、安全な男と認識されてるみたいだし。
「…がんばれ、自分」