impertinent teachar&student−5-2
『ずぶ濡れだねぇ〜』
彼女は持っていたハンカチで、自分の髪などを拭き始めた。
俺はオートロックであるマンションの玄関で、鍵を開ける。
10階建てのマンション。
俺以外はたいてい家族で住んでいる。
ここの家賃はもちろん、生活費は親が出してくれている。
金持ちと言われてみれば、そうかもしれない。
地元では自営業を営んでいるし、兄はもう働いているため、俺にはよくしてくれている。
ただ、成績を落とさないことが条件だが。
『行きましょう。うちは、8階なんです』
彼女を玄関ホールへと、促す。
ホールにはいつも管理人さんがいるから、多少心強い。
管理人さんに軽く会釈し、エレベーターのボタンを押す。
間もなく、エレベーターのドアは開き、俺らは乗り込んだ。
上がってる間、会話はなかった。
俺は緊張して、彼女をまともに見れなかった。
そんな時間も束の間。
気付いたら玄関だった。
鍵を開け、彼女に入るよう促す。
『お邪魔します。あ、広い!』
彼女は玄関でキョロキョロと周りを見渡していた。
『一人暮しには広いかも』
そう言って俺も靴を脱ぐ。彼女はブーツを脱いだ。
俺のお気に入いりのNIKEは、雨でぐちゃぐちゃだ。
靴下を脱ぎ、脱衣所に向かう。そしてタオルを持ってリビングに行く。
彼女は既にソファーに座って、寛いでいた。
『はい』
彼女にタオルを手渡す。
『あ、サンキュー。ごめんね、なんか寛いちゃって』
『いいですよ。今、お風呂入れてるんで、もう少し待ってて下さい』
『…なんか、ごめんね。いろいろしてくれて』
申し訳なさそうな顔で俺を見る。
この表情を見るのは今日で3度目だ。
俺は思わず吹き出してしまった。
『え!何?』
『いや…よく謝る人だなぁって。で、思わず…』
『だって悪いじゃん…って、ちょっと笑いすぎ!』
『さっき笑われたお返しですよ』
『失礼ね!』
『どっちが?』
二人が顔を見合わせる。
そんな状態に耐えられなくなり、二人共笑う。
『あ、お風呂入ったみたいです。どうぞ。バスタオルと着替えは置いてあります。乾燥機もあるんで』
『ほんと?じゃ…お先に』
そう言って彼女は、リビングを出た。
俺はその間に晩飯の用意をすることにした。
『お先に…って何やってるの?』
風呂上がりの彼女が、バスタオルで髪を拭きながら言う。
『いや…晩飯用意しようと思ったら、思った以上に時間がかかっちゃって…』
俺は一人暮しを始めて半年なのに、未だ料理の要領が悪い。
『その段取りだと…オムライス?』
『はい…』
『分かった。じゃ作っておいてあげるから、君もお風呂に入ってきなよ』
そう言って彼女は、キッチンに立った。
俺は彼女の言葉に甘えることにした。