訪問者-3
男は喋り過ぎた事を後悔する表情になっていた。恵はブレスレットを向け、
「あなたの脳を強制制御して無理に話せても良い。」
「そうすれば、脳に障害が残る事もある。」
と話す。男は怯えた表情で、
「このユニットの前にある建物に偵察に行った。」
と答えた。恵は母家の方を見て、
(正輝!)
と焦り、男を立たせて両手を後ろに回させ掴むと男共々地下室から納屋の床にジャンプした。恵と男が地下室から出ると地下室扉がシップのシャットダウンと連動していた為自動的に閉じる。男はよろめき納屋の床に着地すると、
「腕をそんなに強く持たないでくれ!」
「折れそうだ…」
と泣き言を言う。恵は男の両腕を背中で右手一本で固定したまま、
「静かに!」
と言うと男を促す様に納屋から外に向けて歩きだす。母家と納屋の間は5、6mしか無くすぐに母家の入り口の玄関に着く。男を先にゆっくりとドアを開け中に入る。2階への階段が見える吹き抜けのスペースに進むが誰も居ない。
右側に行くと居間が有り、テレビやソファ、テーブルが見えるがそこにも誰も居ない。恵が、
(二階か?)
と思い、男を連れて行こうとした時、
「仲間の手を離せ!」
と低い伸びのある日本語が聞こえてきた。居間の隣のキッチンの死角から正輝を先にして恵が連れている男より背も肩幅も大きな男が現れる。やはり真っ黒なベガァの戦闘スーツに身を包んだ顔も黒い男だ、人類の黒人タイプと同じ様にみえる。その黒人は冷淡な口調で、
「グリィ、お前を捕まえられる女だ。人間じゃ無いな!」
「アルファ人が来たら知らせろと言った筈だ。」
と恵の側の白い男にベガァ語で言うと、
「済まない、アルゥ…」
「気付いた時には後ろに立たれていたんだ。」
とグリィは言い訳がましく答える。黒い男、アルゥは舌打ちして、
「アルファ人、グリィを離せ!」
と恵を見て要求する。正輝の頭に先程恵が白い男、グリィから取り上げ破壊した武器を正輝の頭に突き付けていた。正輝は訳も分からず、聞いた事も無い言語に戸惑っているばかりだ。
(こいつら、何なんだ!)
(新しく現れたスーパー○ール見たいな女性は誰?)
(母さんは何処?)
と混乱していた。
黒人の来訪者を二階から見掛け一階に降りた、黒人が納屋に行ったと思い玄関のドアを開けたら、目の前に黒人がいて今頭に突き付けられている武器から赤い光線が正輝に当たり、正輝は体が痙攣してうずくまった。
声を出そうとしたが出ず、体の感覚、五感が一時的に麻痺した様になる。正輝は今になって、ようやく体の自由が効き感覚を取り戻した。黒人から、
「言う事聞かないとまた体を麻痺させるぞ。」
と流暢な日本語で脅され、この黒人の言いなりになっていたのだ。恵は、アルゥと言われた黒い男を見て、
「この星で何をしている?」
「有人惑星にお前達は入る事を禁じられている。」
とベガァ語で聞く。アルゥは、
「この星に害は及ぼしてはいない。」
「少しばかり鉱物を貰っているだけだ。」
とグリィと同じ事を言う。恵はアルゥを見据えて、
「勝手に採るのは犯罪だ。」
「取り決めを忘れたのか?」
「お前達が採掘出来るのは、無人惑星のみでエリアも決められている。」
と言うとアルゥは声を荒げ、
「大して取れない星ばかりだ。」
「取り決めは不公平だ。」
と怒鳴る。恵は受け流す様に、
「戦後の協定で決まった事だ。」
「お前達の指導者が認めた事だ、戦いに負け全滅を免れる為にな。」
「そんなに資源を集めまた戦争の準備か?」
「次こそは手加減は無い、種族が滅びるぞ。」
と指摘するとアルゥは激高する。
「この!クソ女め!」
「言いたい放題言いやがって!」
と叫ぶ。そして正輝の頭に突き付けていた小型武器で正輝の側頭部を小突く。
「痛い!」
と正輝が悲鳴を上げると恵は思わず、
「止めろ!」
と制止する。アルゥは何かを発見した様な顔になり意地悪な表情へと変化する。
「やはりな、この人間の男は知り合いか?」
「先ず、グリィを離せ!ビッチ!」
と大声で要求する。恵は、
(ベガァ人はすぐに殺す、やむを得ないか。)
と唇を噛み、グリィを掴んでいた腕を離す。グリィは腕を揉みほぐしながらアルゥの隣に駆け込む。アルゥは、
「この女、強かったか?」
とグリィに聞くとグリィは頷き、
「ああ、全然敵わなかった。」
「凄く強いぞ、油断するな!」
と顔をしかめて話す。アルゥは頷き、
「お前の武器はあの女が持っているのか?」
とグリィに聞く。グリィは、
「あのビッチに全部取り上げられ、破壊された。」
と申し訳無さそうに答える。アルゥは不機嫌な顔になると恵を見据え、
「武器を取り上げ無いとな。」
「その両腕のブレスレットを外して部屋の隅に蹴れ!」
と恵に要求する。グリィは、
「俺達で使おう!」
と提案するもアルゥは顔を振り、
「アルファ人しか使えない筈だ。」
「下手に使えば黒焦げになるぞ!」
「俺は前にそれを見た。」
と返す。グリィは恐れを為した表情で、
「そうなのか!」
と驚く。恵は言われた通りブレスレットを両腕から外して居間の隅に蹴った。