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月の裏側
【調教 官能小説】

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偶然-1

支社につくと、社内がバタバタしていた。
庶務の女性がなんだか慌てながら近づいてくる。
「すいません、支店長がコロナの濃厚接触者になってしまって・・・」
この一年、そういったことはよくあった。
この時勢、それも仕方がない。しかし、監査の日程を崩すことは難しい。
すると、若い男性社員が現れた。
「支店長から連絡があり、よろしければ自分が担当させていただきたいのですが」と言う。

とりあえず、せっかく来たので、用意された会議室に入り、監査をしてみることにする。
あまりにも若い社員なので、もしかしたら無理かもしれないとは思うが、美月としても
予定は消化して大阪に戻りたい気持ちも強かったのだ。

男性社員は、32歳と若かったが新卒からの社員であったため社歴は十分にあり、
不慣れながらも内部監査の対応は思ったより問題がなかった。
むしろ、歳を取った支店長などよりもPCにも強く、スムーズに進んだこともあり、午後には、少し雑談をするくらいの余裕が出てきた。

帳票の確認をしようと美月が棚に手を伸ばした時、ファイルが数冊、棚から落ちてきた。
男性社員が機敏に動き、美月にはぶつからなかったが、会議室の机やいすにバラバラと落ちた。置いてあった美月のカバンも床に落ち、中身が散乱してしまった。

とっさにかばってくれた男性社員にお礼を言い、散らばった荷物を片付ける。
男性社員も「大丈夫でしたか?すいません」と言いながら、一緒に荷物を拾ってくれた。
黒い革のカバンに入っていたのは、どれもこれもシックな小物類だった。
黒い革の財布、エンジ色の手帳、ブランド物と一目でわかるポーチなどが散乱していた。
しかし、男性社員がふと手を止めた。シックな小物に紛れて、ゲームのキャラクターの
絵が付いた可愛らしい小さな巾着があったからだ。

巾着を手渡すと美月は、説明した方がよいなと思って言った。
「これは娘のものなのよ。この前帰省したときに忘れてね。東京で一人暮らしをしているので、この後久しぶりに食事をするから渡そうと思って」と。
それをきっかけに、2人は内部監査もそっちのけで雑談をしていた。
男性社員は、祐という名前だった。
地方出身で一人暮らしをしており、美月の娘が忘れた巾着のキャラクターが出ているゲームを毎日していると言っていた。
美月も数年前になるが、娘と一緒にそのゲームをしていた時期があったので、
思わぬ共通点で盛り上がった。

帰り際には、ゲーム内の連絡先を渡され、大阪に帰ったら一緒にゲームをしましょうと
約束するのも自然な流れだった。

娘と食事をすると、娘が「ママ、今日はなんかいつもと違うね。化粧品でも変えた?」と聞いてくる。多分、祐との会話のせいだろうと思った。
堅い仕事の中、いつも警戒心を全開していることもあり、常に鎧を身にまとっているような日々だった。そんな中、ふと知り合った一回りも年下の男の子とまるで友達みたいに話したのが、案外自然で楽しく、全く無理がなかった。
どうしてあんなに無理がなかったのだろうかと思いながら、祐の顔を思い出して、また自然と笑みがこぼれた。



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