インクブス・ゲーム-14
「愛のレクチャーはそれくらいにしてくれる?」 嫌な声がした。
「出て行け」入れ続ける。 「おまえは関係ない。マイの一族に恨みを晴らすだけだ。もう俺は夜だけの蛾ではないんだ」
「私が言った言葉だ。かわりに抱いてあげようか」なまめかしい声。
「ほう」止めて、美しいその姿を見た。
「あなたはちょっとやりすぎた」
パンドーラの尻を蹴って出ていかせる。そして振り返るとサヤをにらんだ。
ばかにするようにしゃべるこいつは、油断ができない。
きゃしゃな体つきと細い指、美しい顔のこいつは、銀色の髪の隙間から俺を見つめて、誘惑してくる。 この俺をだ。
男だと知っていても、女としか思えなくなってくる。
「おまえは何がしたいんだ」
「腰のそれをどうしてほしい。さわってほしい? 途中で止めちゃったから怒ってるの」
「要件を言えと言ってるんだ」
「なら、誘惑してないで、服を着れば」
俺は服を着た。そうしながらサヤのたくらみを考えた。 ≪ばかなことを言って、パンドーラを逃がすための時間かせぎか。それともだれか援軍を待っているのか≫
サヤは浴室を出た。
後をついて行くと休憩室に入る。もうテレビ関係の人間はいなかった。
「あいつらはどうした」
「とりあえず帰ったようだね。自分たちのテリトリーでやり合うんじゃないの。どうせ警察を呼んで大っぴらにもできないしね。わたしの知ったことじゃない」
「それで、何が言いたいんだ。俺をまた蛾扱いしようというのか」
「あなたは確かに蛾じゃない、正確には蛾ですらない。ただの犯罪者。 違うというのなら、どうしてドラに対して、愛をささやかずに、脅迫して従わせた。それは犯罪者のやり方だ」
こいつと会うまでは、闇の中に女を求めてうろついて、忍び込んでは喜ばせていた。
貞淑な妻が夫の知らない子供を産んで争いになったり、ひとりで外に出たことのないような生娘の腹が急に大きくなったりするのを見るのが楽しみだった。
かわりにその何倍もの人が不倫をし、密会を重ねた結果をインクブスのせいだと押し付けてくる。 一種の共存のようなものがあったのだ。
今日の事件。そう、事件は意味が違う。
「遺物よ、わたしの領土を荒らすんじゃない」サヤが低い声で言う。
「なんだと」
「ひそやかに夜の友として、女のもとに通うだけならよかったものを、やりすぎた。闇のものは闇を這え」
「どうしてそんなに敵意をむける。この騒動のおかげで、このさびれた城はインクブスの住んだ城として有名になるだろう。
いろんな迷信の中で、インクブスとはしゃれてるだろ。俺が広めてやったんだ。
それから、おまえが結婚できたのも俺のおかげだ。王女が処女のままなら、しきたりを軽んじてまで、ただの一目惚れのおまえなんかと結婚したわけがない‥」 ふと止まる。 「本当に俺は王女を襲ったのか。俺には記憶がない」
「そうだよ、教えてあげよう。おまえは私のふりをして、王女のベッドに忍び寄った。
そっと羽根布団をどけて、眠るサージとヒトミを襲って、裸で眠る二人の写真を撮ったんだよ」
アイが駆け込んできたので、あわてて入れ替わりに逃げたんだ。
そして私が疑われることになった。
だけど、誤解は解けて、私たちの愛はもっと固いものになったんだよ。
しかし、失敗したおまえは、さらに牙をむいた。