家族旅行での出来事 1日目 午後の出逢い-7
「mぅ……。」
香澄は小さく口を開け、思わず喘ぎ声を漏らした。
史恵の手はさらに大胆に動き、香澄の股間へと近づいていく。
史恵の指がパンティーの縁をくぐり、さらに奥まで進もうとしていた。
「あ、だめ。」
香澄はハッと我に返り、目を開いた。
史恵は慌てて香澄の身体から手を引いた。
「ごめんね。そうだよね。あれからもう何十年も経つんだもんね。
ごめんなさい。」
見ると史恵は目に涙を浮かべていた。
香澄は立ち去ることも出来ず、
かと言って史恵に言葉もかけられず立ち尽くしていた。
二人の間に沈黙が流れた。
やがて、史恵が一歩下がり、たたずまいを直すと、目線を落とした。
「お客様、大変失礼いたしました。
お風呂はあちらでございます。ごゆっくりどうぞ。」
史恵は急に他人行儀な言葉遣いでそう言うと、
お辞儀をして歩きだした。
香澄はその場に立ち尽くしたまま、史恵の後姿を見ていたが、
史恵の姿が帳場に消える寸前に思わず声をかけた。
「フーミン。夫に話してみるわ。
この宿が気に入ったから、少しゆっくりしたいって。」
史恵の足が止まった。
史恵は振り返らず、香澄とは顔を合せないまま、小さくお辞儀をした。
(ずいぶん真奈美を待たせちゃったわ。)
香澄は廊下を曲がって、急いで風呂へと向かった。
廊下を歩いていくと、一番手前に男湯、真ん中に混浴、そして一番奥に女湯があった。
混浴の暖簾がかかった風呂場の前を通り過ぎる時、
香澄には微かに叫び声のようなものが聞こえた気がした。
宿の者は、今夜の泊りは2組だと言っていた。
だとすれば、今の声はあの兄妹たちのものだろうか。
(真奈美の話が事実だとしたら……
始まっている、いや、続いているのかも……。)
香澄はタオルを持ち直すふりをして混浴の前で聞き耳を立てた。
やはり微かに叫び声のような声が聞こえる。
(間違いないわ。やってる。しかもかなり本格的。
あんなに大人しそうな子なのに、あんな言葉まで口にして……。)
「お母さん。そこは混浴。まだ、お兄ちゃんたち、入っているみたいだよ。」
香澄がかすかに聞こえる喘ぎ声に夢中になって聞き耳を立てていると、
ふいに自分を呼ぶ声がした。
真奈美だった。
見ると、女湯の暖簾が開いて中からすっ裸の真奈美が顔を出した。
「ヤダ、真奈美ちゃんたら。裸で出て来るなんて。」
「もう。お母さん、遅いから、真奈美、心配しちゃった。」
「ごめんなさい。ちょっと知り合いに会ったものだから。」
香澄はいきなり真奈美に声を掛けられ、どぎまぎし、
浴衣の裾や合わせ目に乱れがないか慌てて確かめた。
(これから脱ぐのに、バカみたい。)
「知り合い?あ、女将さんでしょ?」
「えっ?どうして知ってるの?」
「さっき、お風呂の様子を調べに来た時に会ったんだ。」
「そ、そうなんだ。」
(別に見られていたわけじゃないんだわ。)
香澄は正直ホッとした。
いくら真奈美が早熟だとは言え、
旅館の女将とキスをしているところを見たら、香澄はどう思うだろう。
「あのおばちゃん、いい人だね。でも、ちょっと秘密があるっぽいけど。」
真奈美はそう言って香澄の顔をじっと見てほほ笑むと、
踵を返して風呂場へと入っていった。
真奈美はまたもや、何かしらの勘を働かせているらしかった。
香澄は慌てて女湯の暖簾をくぐり、真奈美の後を追った。
真奈美はもう湯船の中にいた。
香澄も慌てて浴衣を脱ぎ、洗い場へと向かう。
パンティーを脱ぐ時、明らかに真ん中の部分が湿っていることに気づいた。
(いきなりキスをしてきたり、胸を触ってきたり……。
ちっとも変っていないんだから。
こんなに濡れてしまうなんて……。
敏感なところばっかり刺激されながら揉まれたんだもの、仕方ないか。)
香澄は股間の濡れを史恵のせいにしようとした。
しかし、香澄は本当は、兄妹で一緒に風呂に入っているという話を聞いた時に、
すでに興奮して、股間を濡らしていたのだ。
さらには妹が兄にフェラをしていて、
夕食後に一緒に風呂に入る約束をしてきたという話を聞いた時から、
すでに香澄の身体には火がついていた。
(ああ、重なる時は重なるものなのかしら。
それこそ道ずれのカップルとおかしなことになりそうだし。
たまたま選んだ旅館が史恵の旅館だったなんて。
高校の同窓会以来?何年ぶりだろう。
でも、史恵もなんかいろいろと訳アリみたいだわ。
10時過ぎなら時間があるなんて言っちゃったけど、
まさか、もうあんなことにはならないわよね。)
香澄は洗い場で身体を流しながら、遠くを見る目になった。
高校時代のこと、その頃に付き合っていたボーイフレンドとのこと、
そして史恵とのこと。
(今となっては、全部がいい思い出……。
ううん。やっぱり全部いい思い出とは言えないわ。
史恵はどう思っているんだろう。
最初の結婚……。やっぱりうまくいかなかったんだわ。)
史恵に会うまでは全くそんなことは頭の中にはなくなっていたはずのことが、
急に鮮明に思い返されてきた。
香澄と史恵を取り巻く青春の思い出。
自分と史恵の心と身体を通り抜けて行った男子の存在。
夫の雅和にはとても話すことはできなかった思い出が数々ある。
その後の、香澄の人生を左右しただろう出会いと別れが、高校時代にあったのだ。
しかし、それ以降の歴史の方がはるかに長いのだ。
昔のことに囚われて、今の生活を失うようなことになってはいけない。
(そうよ。昔のことに囚われずに、久々の再会を楽しめばいい。
そうだわ。その方が二人とも楽しいはずだし、幸せなはず。)
香澄はそう思いながらゆっくりと目を閉じた。