家族旅行での出来事 1日目 午後の出逢い-3
仲居はそれを全く意に介さず、広瀬たちに向かって話し続けている。
「お客さんのような若いカップルには必要ないかもしれないけれど、
入るたびに男も女もギンギンの濡れ濡れ間違いなしなの。
なんなら中で始めちゃってもいいんじゃない?
貸し切りじゃないのになかなか出てこないカップルがたくさんいるから。
あ、ごめんなさい。お子様もいらしたのにね。」
仲居が興味深そうに聞いている真奈美の存在に気づいて慌てて口を押えた。
「あ、お気遣いなく。この子も、そう言ったことはよくわかっていますので。」
香澄は恐縮している仲居に気を遣わせまいと笑顔で話しかけた。
「よくわかってらっしゃる?そ、う、なんですか?
でも、まだ20歳そこそこ、でしょ?」
「あ、真奈美、15歳だよ。今度、高校生。」
「15歳?えっ?」
「あ、いや、驚かれるのは無理もないと思います。こいつ、結構早熟で。
頭の方はさっぱりなんですが、身体の方と経験値の方は一人前で。」
「あなた。余計なこと言わないの。」
(しゃべれせておいたらどこまでしゃべるかわからないわ。)
「いや、叱られました。」
「では、まあ、ご夫婦で、後程、ごゆっくりと……。」
仲居は広瀬兄妹を部屋へと案内していった。
真奈美たち家族は帳場の奥から出てきた番頭さんに、部屋へと案内された。
「ねえ、3人で入ろうよ〜。」
真奈美は部屋へ通されるなり、父親に言った。
「露天風呂、露天風呂、露天風呂〜。」
「真奈美、ほら、さっきの広瀬さんたち。あの2人もお風呂に入ってるだろ?」
「あ、うん。疲労回復によく効くって言ってたもんね。
あ、それからギンギンぬれぬれ、だったっけ?」
真奈美はちゃんと覚えていた。
「真奈美。いいかい?ほら、ここの露天風呂は、一つだけ混浴だって。」
「うん。だから、3人で、それに入ろうよ〜。」
「いいか。真奈美。我が家の3人は男、女、女。」
「あ、混浴だ〜。一緒に入るなら混浴だ〜。」
「じゃあ、広瀬さんたちは?」
「え〜?広瀬さんたち?さっきのお兄ちゃんとお姉ちゃんたちだよね。
あ、男と女……。ああ、混浴だ〜。」
「ね?だから、混浴は譲ってあげなきゃ。」
「でもあなた。兄妹で一緒に入るかしら。妹さん、もうお年頃だし。」
「いや、お年頃だからこそ、一緒に入ると思うな。」
「そう?男湯、女湯に、それぞれ分かれて入るんじゃない?
のんびりだったら一人の方がいいと思うし。」
香澄は夫の言葉に首をかしげながらゆっくりとお茶を飲んだ。
「じゃあ、真奈美が調べてくる。」
「調べるって、何を?」
「あの二人がどっちのお風呂の入るか。」
「ちょ、ちょっと、真奈美ちゃん。」
そう言ったかと思うと、真奈美は素早く部屋を飛び出していった。
「まったく。思い立ったらすぐに行動に移す。あの行動力は大したもんだ。」
「ちょっとあなた。なに、褒めてるのよ。
入浴中の浴室にいきなりお邪魔したらどうするのよ。」
「いや、大丈夫だと思うよ。真奈美の勘も洞察力もかなりのもんだから。
真奈美が言うように、ちゃんと調べて来ると思うよ。」
「だって。もしもいきなり男湯を覗いたりしたら犯罪よ。
それに、もしもあの広瀬さんに見つかって、一緒に入ろうなんて言われたら、
真奈美のことだから喜んで一緒に入っちゃいそうだわ。」
「いや、広瀬君は男湯には入っていないさ。妹さんと一緒に混浴のはずだ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
「まあ、もう少し待っていようよ。あ、ビール、1本くらい開けてもいいかな?」
雅和はそう言って冷蔵庫からよく冷えたビールを取り出した。
香澄は真奈美の戻りが遅いのを心配しながらも、
夫のコップを横取りし、冷たいビールを一気に空けた。
「あ〜疲れた〜。生き返るわ〜。」
「なんだよ、運転してきたのはボクだからな。」
空腹でのビールは思ったよりアルコールの回りが早い。
夫婦水入らずでたわいもない会話をしながら香澄は次第に機嫌を取り戻していた。
雅和も、香澄の機嫌を損ねまいと、話題には気を付けているようだった。
雅和が2本目のビールに手を伸ばした時、真奈美が部屋に戻ってきた。
「あ、お帰り。どうだった?」
「うん。広瀬さん?だっけ?」
「うん。」
「二人一緒に入ってたよ。」
「な?」
雅和は香澄の方を自慢げに振り向いた。
あまりにも真奈美があっさりと言うので香澄は戸惑った。
「真奈美ちゃん、覗いたの?」
「だって、混浴だもん。真奈美が覗いても平気でしょ?」
「そうなんだ。混浴に入っていたんだ。
兄妹とは言っても、あの年齢で一緒に入るなんて、よっぽど仲がいいのね。」
「うん。楽しそうだったよ。」
「ヤダ。真奈美ちゃんったら。どのくらい覗いてたのよ。」
「だって、声が聞こえたし。
覗くっていうよりも、脱衣所からお風呂がよく見えたから。」
「そう。じゃあ、ふたりでゆっくりあったまっていたのね。」
「あのね、お兄ちゃんの方が揉んであげてた。」
「揉む?そうか、だいぶ疲れているみたいだったもんな。」
「ええ。駅から4,5時間って言ってたものね。」
歩き疲れた足かどこかを揉んであげていたのだろう。
優しい兄なのだな、と香澄は思った。
「でも、お兄ちゃんが揉んでたのはお姉ちゃんのオッパイだよ。」
「オッパイ?」
「うん。お姉ちゃんの方はお兄ちゃんのをしゃぶってたし。」
「真奈美ちゃん。あなた、一体何を見てきたの?」
香澄は思わず身を乗り出して真奈美を見た。