短い休日-1
最近捜査が終了した他の捜査課が、手伝ってくれる事になり、人手が増えた。そのお陰もあって余裕が出来、交代で休みを取ろうとなった。
咲良は、書類の決済が有るので半日休暇だが、それでも嬉しかった。朝早く出勤しなくて良いからだ。帰って夫に、半日休暇の事を伝えると休める事を喜んでくれた。その笑顔を見て、
【ごめんなさい、あなた。】
【こんなに優しいあなたを裏切って。】
と心の中で詫びた。お風呂上がりに冷蔵庫にビールを取りに来ると、貼ってあるカレンダーに半日休暇の日の所に法事と書いてあった。夫に、
『法事に私も行こうかしら?』
と聞いて見ると、夫が
『せっかくの休みだし、行かなくて良いよ。』
『半休だし、法事で休み潰れちゃうぞ。』
と言ってくれる。今度の法事は、義父のお兄さんの3回忌だ。日頃、義父母には、子守等でお世話になっている。夫にその旨を伝え、
『是非行きたい。』
と言った。夫がすぐ義父に電話してくれ、出席出来る事になった。夫が咲良に、
『父さん、咲良が法事に来てくれる事になって喜んでいたよ。』
『よろしく、お礼伝えてくれって。』
と言う。咲良は、
『そんな、お礼だなんて、家族だから当然よ。』
と言いながら、これは夫への罪滅ぼしの気持ちがそうさせたのか、咲良にも判らなかった。
翌日、定時上がりの部下達を見送って、今日は早く上がれそうだと思っていると、机に置いたマナーモードのスマホが、
『ブゥー、ブゥー』
と振動する。スマホの画面を見ると、〈桜井太郎〉と表示されていた。咲良は、ドキドキしてスマホを持って立ち上がり、どこで掛け直そうか考えた。
女性用トイレは、結構人が出入りしていて使えそうにない。思案して、使用予定の入っていない少人数用の会議室で掛け直した。ワンコールで桜井が出て、咲良が名乗る前に
『次の休みは、いつだ?』
と聞いてくる。咲良は、苦笑しつつ
『まだ、決まっていません。』
『明後日、午前中だけ休みだけど、法事があるので会えません』
と返す。桜井は、
『法事?どこで?』
と聞いてくる。咲良は、
『郊外の○○市に有る△△寺です。』
と答える。桜井は、
『そこは、知っている。』
続けて、
『何時からだ?』
と聞いてきた。咲良は、嫌な予感がしつつ
『10時からです。』
と言うと桜井は、
『法事の日、△△寺で会おう。』
『当日、連絡する。』
と言い切ろうとするので、咲良は慌てて
『無理です、家族もいますし。』
『お願いします、別の日にして下さい。』
と頼んだ。桜井は、
『これは、命令だ』
と言い通話を一方的に切った。咲良は、パニックになった。
【お寺で?】
【二人で会える場所なんてあるの?】
【夫や子供、義父母達も居るのに。】
【どうしょう•••】
と混乱していた。だが同時に、桜井に会えるかも知れないと思うと胸が高鳴る。談話室での"面会"の次の日から、桜井の着信を心待ちにしていたのだ。
相反する二つの感情に、咲良は混乱していた。法事に今さら行かない訳には行かない。明後日は、どうなるのだろうと不安になり始めた。