1990年7月4日-1
1990年7月4日
今日は合衆国独立記念日で、世間では祝日だった。とはいえ、私たちは任務で、海軍航空隊基地に朝から派遣された。
新鋭機を一目見ようと集まった人だかりの中、熱中症で倒れる者や、親とはぐれて迷子になる子供たちが次から次へと現れた。そんな人々への対応が私たちの小隊の任務だった。
ふと、私の名を呼ぶ声が聞こえた。日本語で。
声がした方に目を向けると、あの少年がいた。私の記憶に残る彼よりもだいぶ背丈が伸び、発達途上の上腕筋や大胸筋が逞しく見えた。私は眩暈を感じた。まずい、私も照りつける太陽の熱と光に当てられて、ついに幻覚を見始めたのか?このところの睡眠不足が祟ったのか?
次の瞬間、彼は私の手を取った。その優しい掌の感触に、かつて私を大切そうに愛撫してくれた時の記憶が蘇ってきた。そして、これは幻覚ではなく、紛れもない現実なのだと私は悟った。彼は確かにそこにいた。
懐かしい気持ちと再び会えた喜びが、私の胸に一気に込み上げきた。そして、私の目から涙がこぼれ落ちそうになった。
だが、任務に私情を挟むことはできなかった。1500に給水休憩が予定されていたため、詰所の隊員食堂まで来るように彼に伝えた。咄嗟に、英語で答えてしまったが、私のメッセージは彼に届いただろうか?
1400に原隊に帰投せよとの命令が下ったため、急遽海軍基地を後にした。
彼は私を恨むだろうか?彼はここサンディエゴで何をしているのだろうか?たまたま旅行で訪れていただけなのか?それとも、ここに住んでいるのか?今度はいつ会えるのだろうか?
とりとめのない疑問が次々に頭に浮かぶ。しかし、考えてもみてもムダだ。今日はもう寝よう。